真夏のデザート

 夏休みだ!
 解放感を形にするように、夢の中へと飛び込む。
 夜更かししたって、昼間に寝ればいいもんね。
 って、矛盾してるみたいなこと言ってるけど、間違ってない。
 わたし、牧野愛良(あいら)は中学生にして狩人(ハンター)なんだ。狩ってるのは夢魔と呼ばれる化け物。だから活動は夜中なの。
『こら愛良、はしゃいでないでさっさと夢魔を探さんか』
 腰の剣がさっそくお小言を発した。この剣はわたしの愛用の魔剣、サロメって名前。
 でもなんで女の人の名前なのに、人格がじじぃなんだろう。実はおかま――。
『余計な詮索はせんでよい』
 へいへい。
 お父さんの病院に来る患者さんが最近悪い夢を見るって相談してきて、様子を見に来たんだけど、やっぱりこれは夢魔の仕業みたいだね。夢の中に入ったら、景色は普通の夏の住宅地なのに夢魔が見せる夢独特の重苦しくまとわりついてくる雰囲気を感じる。
 これが判るようになったのは、今から半年くらい前から。狩人として活動し初めて半年で判るようになるなんて、わたしってば素質ありだよね。
『そういうのを自画自賛というのだ』
 うるさいよ、もう。勝手に人の思考読みとってつっこまないでよ。
 サロメが近くにあると、サロメとわたしの思考はつながる。サロメの声も、耳に聞こえるのではなくて頭の中に響く感じ。でなきゃ口もない物体の言葉なんて判らないよね。サロメに口なんかついてたら、それはそれでむちゃ怖いけど。口のある柄なんて握りたくないし、刃に口があって敵をぐわばぁっとかじるなんてのも怖すぎる。
 そんなホラーなことを考えてると、景色がぐにゃっと歪んだ。空が暗くなって入道雲が割れて、そこから羽を生やしたコウモリみたいなのがたくさん飛んでくる。それまで聞こえていた蝉の声がやんで、かわりに、まるで地獄の底から聞こえてくるような不快で不気味な唸り声がする。
「さぁ、サロメ、出番だよ」
『何を言っておる。これしきの低級な夢魔にワシが出ることもあるまい』
 ああぁ、はいはい。サロメはいつもこうだ。お主の剣の修行だとか言って、強い敵を前にした時しか鞘から抜けない。本当は面倒くさがりなじじぃなだけなんじゃない?
『やかましい』
 腰の剣がカタカタと震えた。図星だったのかな。
 ……っと、そんなこと考えてる場合じゃなかった。
 わたしはサロメの隣に下げてある竹刀を手に取った。お母さんの実家の神社でお清めをしてもらったこの竹刀でなら、低級な夢魔を消滅させることができる。
「愛良、いっきまーす!」
 群れをなして飛んでくるコウモリ達に、竹刀を思い切り振り上げた。

 昔から、夢魔は存在した。悪い夢や嫌な夢を悪夢って言うけど、あれは夢魔が見せてるものなんだって。
 夢魔は人に悪い夢を見せて心を弱くして、鋭気をすすり取って生きてるらしい。
 それに対抗するのがわたし達狩人ってこと。
「おかえり愛良。その様子だと夢魔の仕業だったんだな」
 草木も眠る丑三つ時の住宅街の人目につかない一角で、夢の世界から帰ってきたわたしをお父さんが出迎えてくれる。じっとり汗をかいて息も少し弾んでるからすぐに判るよね。
 でもお父さんって、こういうことに関わってるのに、結構おっとりした人だと思う。今もにこにこしてるし。
 お父さんはいわゆる町医者で内科が専門だ。今回の夢魔の話はお父さんの患者さんから直接聞いたんだけど、いつもは夢魔の情報を渡してくれる組織から依頼されるんだ。
 夢魔に対する組織がどんなもので、どんな規模で、とかいう大人の事情は、わたしはよく判らないけど。
「うん。やっつけてきたよ」
「それはよかった。さぁ、夜も遅いしすぐに帰ろう」
「はーい」
 さすがに真夜中をすぎると、夏休みに入ったって興奮だけじゃ眠気を払えないね。たくさん運動もしてきたし。
 家に帰ったら、ちゃっちゃとシャワー浴びてすっきりして、寝よう。

 それにしても毎日暑い! 気温もそうだけど蒸し暑いよ。こんな日が続いたら体力も気力も奪われちゃうよね。だからこその夏休みなんだろうけど、だったら宿題なんてなけりゃいいのに。
 友達とプール行って遊んでる間は涼しいけど、何も予定のない日の昼間はじっとしてても汗ばっかり。打ち水をしても、夕立が降っても、なんか本当に焼け石に水って言葉がぴったりで、湿度ばっかり上がっちゃうし。
 これが南の島へのバカンスとかだったら、全然暑さなんて気にならないかもしれない。夏はいろいろと楽しいこともあるから好きだけど暑いの嫌だし、あ、いっそ南極とか北極とか行ってみたいなぁ。
「愛良、ちょっと頼みたいんだけど、いいかな」
 夕方、お父さんに呼ばれた。
 ここから車で三十分ほどのところにある海岸の方で、よくない気配が集まってる兆しがある、って「夢見(ゆめみ)」の組織から連絡があったらしい。
 夢見っていうのは、夢魔のいるところを教えてくれたり、夢の世界と現実世界をつなぐトンネルを作ってくれる能力者だ。力の強い人になると、狩人が夢の世界に入ったら呑まれて閉じ込められないように、夢の状態を安定させてくれたりもするみたい。
 お父さんも夢見だ。わたしが夢にもぐる時はいつもサポートしてくれる。
「夜になったら出かけるから、準備して待っててくれ」
 にっこりと大好きな笑顔で言って、お父さんは診察に戻ってった。
 準備、といっても動きやすい服着て、サロメと竹刀を持っていくだけなんだけどね。
 服はどうしようかな。Tシャツと短パンでいいか。靴はスニーカーだね。
 よぉし、夢魔退治頑張るぞ!

 お父さんが運転する車で海岸に向かう。
 今日は花火大会があったみたいで、反対側の車線は帰る人達の車でいっぱいだ。たくさんのヘッドライトに照らされた歩道を、浴衣で綺麗に着飾った女の子達とか、家族連れとか、アロハシャツ着たちょっとガラの悪そうなお兄さん達とかが楽しそうに、でもちょっとだるそうに歩いてる。
 いいなぁ、花火綺麗だったんだろうなぁ。お父さんの仕事のこととか考えたら、自分で行けるようになるまでは無理っぽいのは判ってるけど、ちょっと寂しいな。
「いつか、見に来ような」
 お父さんがぼそっと言った。もう、そんなふうに言われたら文句言えないじゃん。
 海岸通りから少し離れた見晴らしのいい駐車場に車は停まった。釣りをする人達がよく利用するところなんだって。
 海の方は真っ暗だ。海岸にそって道路にある外灯とか、建物の明かりがいろんな色であたりを照らしてて、そのコントラストがなんだか面白い。
「今日は周りが騒がしいから、もっと少ないと思ってたのに」
 お父さんがつぶやいた。魚が人の声とか賑やかな音を嫌って、こういう日は釣れないから、釣りをする人も少ないだろうと思ってたみたい。なのに駐車場には車が四台も停まっている。
「こんな時間から釣るの?」
「いや、朝釣りだな。夜は車で寝て明け方に海岸に出て釣るんだよ。魚は明け方ごろに朝ご飯だからね」
 なるほど。もしかすると、夜騒がしくてやっと静かになった明日の明け方こそがチャンスと、ここにいる釣り人達は狙ってるのかもしれない。
「愛良も寝てていいぞ。様子を見に行くのは夜中だからな」
 そうだね。闘うことになるかもしれないし、今のうちに寝ておいた方がいいかも。
 ライトバンの後部座席に移って、薄手の毛布をかけて寝ることにした。
 狩人になれるくらい体も心も鍛えてたら、自分の夢を夢魔に操られるなんてことはない。よっぽど上級の夢魔なら危ないかもしれないけど、なぜか上級の夢魔ってあんまり出てこないんだよね。サロメみたいに「ワシの出る幕ではない」ってもったいぶってるのかなぁ。
 そんなふうに考えながらいつの間にか寝てたみたい。
「愛良、そろそろだぞ」
 お父さんの声に、わたしは反射的に跳ね起きた。
 車の窓から外を見ると、寝る前には明るかった街の光がほとんどない。
 外に出ると、潮を含んだ風と、防波堤や堤防に打ち寄せる静かな波音がわたし達を包む。見た目も暗い世界をさらに雰囲気をも暗くしてる。
 お父さんが空に手をふわっと伸ばして振ると、わたし達を中心に薄い膜がドームのように広がった。他の人に見られないための結界だ。こっちから外は見えるけど向こうからは中が見えない。マジックミラーみたいだね。
 夢見とか狩人の活動は別に絶対に秘密にしないといけないわけじゃない。でも人の夢に入るなんてことを話したって信じてもらえないし、信じられたとしてもみんながみんな喜んでくれるわけじゃないから、あんまり知られない方がいいみたいだ。確かに、自分の夢の中を見られるって気持ちのいいものじゃないよね。
 続いて、しゃがんだお父さんが手を広げると、地面の近くに小さな渦巻きができる。白っぽい色で光ってるその渦巻きは、少しずつゆっくりと広がってくる。これが夢の世界へのトンネルだ。このトンネルの近くにいる人の夢に入れる。
「それじゃ、気をつけて。もしも強い夢魔だったら無理せず帰ってくるんだぞ」
 お父さんの、ちょっと心配そうな顔にガッツポーズで応えて、わたしは腰にさげてある竹刀とサロメの柄の感触を確かめた。
 よし、準備ばっちり。
「行ってきまーす」
 足元にある渦巻きの中に、勢いよく飛び込んだ。
 すとん、と降り立ったのは、混沌とした夏の風景の中。
 とある一角では夏の高校野球大会が開かれてるし、反対側では、白い砂のビーチで色とりどり水着を着た女の子達が白玉団子の乗ったかき氷を食べているのを、うるさそうに見てるおっちゃんがいる。別の場所では、朝顔とかひまわりとかを観察しているすっごく日焼けした子供に付き合う、麦わら帽子をかぶってだるそうな顔してるお父さんもいたりする。
 これは……、一人の夢じゃなさそう。
 そうか、釣りに来てる人達みんなの夢が合わさってるんだ、きっと。
『今は何もなさそうだが、気を抜くな愛良。嫌な空気がただよっとる』
 腰に下げたサロメが言う。うん、と短くうなずいて辺りの気配を探る。景色に惑わされないように、目を閉じて体中の感覚を研ぎ澄ませるように、静かに、深く、呼吸する。
 空気が変わった! 冷たい。氷で冷やした手で体中をなでられたみたいにも感じて、ぞくっと体が震える。かと思ったら、全身を針でつつかれているみたいな痛みも感じる。
 明らかに何かが来る予感に、わたしは目を開ける。
 って、なにこれ!
 あたり一面、巨大な氷の塊だ。幾重にも連なって重々しい雲からは雪が舞い落ちてくる。かと思ったら雲の隙間からカラフルな光が見える。あれはオーロラ? ここってどこよ?
『夢の中じゃろ』
 そこ、現実的なツッコミいらないからっ!
 そりゃ、暑いから南極か北極行ってみたいとか思ったよ? けどこんな思いっきり夏の格好の時に気温とかまで再現しなくていいからさ。
『愛良、来るぞ』
 サロメの声と同時に近くの氷が割れて、水しぶきを上げながら魚が飛び出してくる。体を開いてかわして、サロメに手をかけた。
『まだワシの出番ではなさそうじゃの』
 なんとなく予想できてたけど、いざ言われるとムカっとするよ、このくそじじぃ。
『やかましい、ひよっこが。さっさとザコどもを片付けぃ』
 言われなくたってやってやるよ。竹刀を抜いて、飛んでくる魚を正面から打ちすえた。横から飛びかかってくるヤツには竹刀を水平にして払い切りだ。
 それにしても寒い。空気が痛い。呼吸すると体の中まで凍りそうな感じがする。鼻や口の中は当然、胸も痛いよ。実際の北極だか南極だかは、これとは比べ物になんないんだろうけど、なんたってこっちはTシャツ短パン生足だもん。
 魚が跳ねかけてくる海水も冷たい。それに塩っ辛いんだよ。目にかかったら染みそう。気をつけないと。
 延々と小魚達を竹刀で叩き落してく。まさに雑魚って感じだけどいい加減疲れる。
「さっさと出てこい。こんなザコぶつけてくるだけじゃ、わたしは追っ払えないよ!」
 悪夢には、それを作り出す夢魔の「核」って呼ばれるモノがいる。言ってしまえばゲームのラスボスだね。もちろんこれはゲームでもないし、負けたからリセットなんてできないんだけど。
 その核をやっつけないと、夢を支配された人は悪夢から抜け出せない。毎晩嫌な夢を見ながら少しずつ弱っていって死んでしまう。
 そんなことはさせないんだから。
 飛びかかってくる最後の魚を竹刀で返り討ちにして、あたりを見回す。
 空気が、というより夢の中、全体が細かく振動しはじめる。
 ――来る!
 数メートル先の氷が、物凄い音を立てて割れる。崩れ落ちる氷を掻きわけて姿を見せたのは、巨大なシロクマ!
 でもなんか、アニメ調なんだけどっ。顔とかすごく可愛いんだけどっ。これが、夢魔の核?
 えー、ちょっと闘いたくないよ。むしろもふもふしたい。柔らかそうな毛皮にくるまったらあったかそう。
『見た目に惑わされるな、ばかもん!』
 サロメに怒られて、はっとした。
「とにかくやらなきゃ。いでよ、魔剣サロメ!」
 サロメの柄に手をかけて引き抜く。研ぎ澄まされた、一点の曇りもない刃が周りの光を受けてキラキラと輝く。うん、いつ見ても綺麗。
 シロクマちゃんからはすごく嫌な「気」を感じる。これが間違いなく核なんだろう。でも、ねぇ。なにこのギャップ。
『来るぞ。構えぃ』
 大きな体とは似合わない、ちょこちょこと可愛い動きで、シロクマちゃんが振りかぶった。
 腰を落として、どんな攻撃がくるのかと身構えるわたしの前にシロクマちゃんが投げ放ったのは。
「アイスクリームですとぉ?」
 そう、棒に刺さった、バニラアイスクリームが飛んできた。
 横に軽く飛んでよけた。地面に落ちたアイスクリームはすぐに溶けていく。
 シロクマちゃんが、ぐもぉ、と悔しそうに唸った。ちょ、目がバツ印になってる。いちいちなんでそんなに可愛いの。
 と思ってたら、またシロクマちゃんが振りかぶる。
 よし、アイスを投げた隙に懐に飛び込んで斬る。
 相手が腕を振り下ろした。
 大量のアイスがばらまかれる。バニラだけじゃなくてストロベリーやチョコレートやブルーサワーなんかも。うわ、予想外。
 こっちに飛んできたのをサロメでたたき落とす。なんとか直撃は免れた。
 よし、攻撃の後の隙に飛び込もう、と、また目をバツ印にして悔しそうにしているシロクマちゃんに走りよる。
 みたび、腕をふりかぶった。もう喰らわないよ。攻撃の軌道は判ってる。
 アイスを避けるために一旦斜め後ろに飛んでから、もう一度つっこんで――。
 げっ、アイスじゃない!
 飛んで来たのは巨大な釣り針。判ってるけどよけられない。短パンのベルトの紐のところに針が引っ掛かって、すごい勢いで体が持ち上げられた。
 シロクマちゃんは、ぐおーぐおーと喜びの雄たけびを上げている。今度は目がハートマークだよ。嬉しそうな顔がかわいい。反則だそのラブリーさ。
 とか言ってる場合じゃない。何とか降りないと。わたしはサロメを振って釣り糸を切ろうした。そこへ伸びてきたシロクマちゃんの手にサロメの切っ先が当たる。
「ぐおぁー!」
 それまでラブリーだったシロクマちゃんが、急にリアルマッチョな姿になった。何その筋肉ムキムキ、と思ったら浮遊感。シロクマが腕を振ったから釣りあげられてるわたしも振りまわされる。
 あ、ヤバい。このままだと海に落ちる。
 自由になれないならせめて衝撃を和らげようと、身を固くして衝撃に備えた。
 途端に冷たい水の中に体が沈んだ。その瞬間、体の周りの海水が凍りつく。
 げ。氷漬けって状態じゃない。
 息ができない。どうしよう、苦しい。動けない。体中が冷たいし痛いのに、頭の中がかぁっと熱くなってくる。
 シロクマが氷ごとわたしを持ち上げて、周りの氷から食べ始める。やめろー。わたしはアイスじゃないっ。
 頭がぼうっとしてきた。もう駄目かも。
『ばかもん! 愛良!』
 なんか、声がした。誰?
『しっかりせぃ。何のためにワシがついておる』
 そうだ、サロメ……!
 このままデザートで美味しくいただかれるなんて嫌。
(力を解き放て! サロメ!)
 凍っちゃってるから言葉にできないけれど、ありったけの気力を振り絞ってサロメに念を送った。
 途端に光を放つ魔剣。強い光だけど眩しくない。
 サロメの放つ白い光に包まれて、体が自由になった。
 氷が一瞬にして溶けてしまったんだ。いける!
 夢魔にはこの光は嫌なものらしい。シロクマが激しく身もだえして苦しんでる。
 宙に放り出された形になったわたしの目の前に、シロクマの鼻がある。
「夢魔の核よ、消えてなくなれっ!」
 サロメを思い切り敵に叩きつけた。シロクマの眉間に刃が突き刺さる。
 断末魔の咆哮をあげて、シロクマが暴れながら、小さなたくさんの光の粒に別れて消えていった。
 すとっと地面に降り立つと、周りはあの最初の混沌とした夏の風景に戻っていた。
 状況がばらばらの、切り取られて合わさったそれぞれの夏の風景が、すごく平和に見えた。
「ふぅ、よかった」
 サロメを鞘にしまって、入ってきた場所に戻って、渦巻きトンネルにダイブした。
「無事終わったか。よかった」
 一瞬でトンネルを抜けて帰ってきたわたしをお父さんが迎えてくれる。
 外からは夢の中がどうなってるか、詳しくは判らないらしい。こっちと夢の中をつなぐのに集中しているから雰囲気みたいなものは判るみたいだけれど。
「うん。今回も大勝利。でも疲れちゃった」
 結界の中から外を見ると。東の方がうっすらと白んでる。結構長い間、夢の中にいたんだね。
 お父さんはわたしの頭をぐりぐりとなでて、にっこり笑った。
「すぐに家に戻ろう。ゆっくり寝るといいよ」
 うなずきながら、車に乗り込んで後ろの座席で薄手の毛布にくるまった。

 家に帰るまでの車の中で、わたしはすっかり眠ってしまったみたい。目が覚めたら自分の部屋だった。お父さんが部屋まで運んでくれたのかな。日がすっかり昇って、もうお昼近くっぽい
『お主が重くなったと、ひぃひぃ言うておったぞ』
 うわっ、びっくりした! サロメまだここにあったんだ。
『お主のあまりの重さに疲れきって、ワシを仕舞うどころではなかったようじゃの』
 重い重いうるさいよ。
『それにしてもこのたびの夢魔もやっかいじゃったのぅ。ワシゃ腰が冷えて難儀じゃ』
「腰っ。剣の腰ってどこよ」
『ここじゃ、ここ』
 サロメがかたかたと震えた。判らんって。
『とにかく手入れはきっちりとして、あったかくしてくれ』
 蒸し風呂にでも入れてやろうか。
『魔剣虐待じゃよ』
 そんな漫才みたいなやりとりをしてると、部屋のドアがコンコンと叩かれた。
「愛良、起きたか?」
 お父さんだ。
 飛び起きて部屋のドアをあけると、目の前にどーんとシロクマのイラストがっ。
「なっ、何?」
「今回の夢魔は強かったんだって? 健闘をたたえて、おまえの好きなアイスクリームを買ってきたぞ。奮発したんだぞー」
 お父さんはシロクマのイラスト入りの箱をふらふらと振って、にこにこしてる。
 シロクマ、アイス。
 今朝の闘いが頭の中でフラッシュバックした。大口を開けてわたしを食べようとしてるシロクマが……。
「いらなーい! シロクマいやー!」
 部屋を飛び出したわたしを、不思議そうな顔したお父さんが見送った。
 まだまだ暑い日が続くけど、当分アイスクリームはいらない!

(了)



 作品を気に入っていただけたら拍手をください。励みになります。


あとがき

 この作品は、sagittaさん主催の競作小説企画「第六回 夏祭り」出展作品です。sagittaさん、毎年楽しい企画をありがとうございます。
 暑い夏に少しでも涼しげな話を、とメインバトルの場所を涼しげにしてみましたがいかがでしょう。

 この愛良と魔剣サロメの話は、実は随分昔から簡単な構想だけは出来上がっているシリーズです。
 1月のお題バトルでも、いいお題が集まったので書かせてもらいました。それがこちら。
「はい、座布団一枚」
 よかったら読んでやってください。
 今回では書かなかった、愛良が狩人になった動機にも少し触れています。

 夢魔を狩るという設定は結構ベタな現代ファンタジーだと自分でも思いますが、夢の内容を工夫すれば深みも出せるし、キャラクターの動機や行動などでいくらでも大きな世界観を作ることができると思っています。
 世界観やキャラクターなどがしっかりと固まったら、いつか短編連作か長編として書きたいと思っている話です。

 それでは、次の作品で。

 2012年 8月15日

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著作者:Andreas Tille

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