はい、座布団一枚

 敵が、迫ってくる。
 曇り空の下、だだっ広い野っぱらをけたたましく土埃をあげて、ブレーキが壊れた車のように突っ込んでくるのは、トラみたいな動物だ。
 結構でっかいのね。四足なのにわたしの腰くらいまでありそう。子猫とはわけが違うか。
 さぁ今こそ、わたしは愛用の魔剣の柄を握って引き抜き――、ってちょっと! 抜けないじゃない!
『ワシがでるほどの相手ではないわい。お主ひとりの力で倒してみせい』
 魔剣の思念が頭に響く。
「またぁ? もう、もったいぶってないでよねっ」
『お主の剣の修行も兼ねておる。文句を言わずにさっさと片付けぃ』
「このくそジジィ」
『やかましいぞ、しょんべんたれ』
「わたしはもう十三よっ。あんたこそ介護が必要なんじゃないの?」
『バカたれ。魔剣に介護がいるか』
 なんて馬鹿なやり取りをしている間にトラが目の前だ。
 えぇい。愛良(あいら)、いっきまーす!
 腰に下がってる魔剣の、となりにある木刀に手を伸ばした。
 すらっと抜き放ってトラと対峙。トラが鼻で笑うみたいに息を吐いた。ちょっと、木刀だからって馬鹿にしてんじゃないでしょうね。夢魔の中でも下等クラスのくせにっ!
 そう、ここは夢の中。
 わたしは夢の中で戦ってる、狩人(ハンター)なの。
「うおりゃっ!」
 竹刀を振り上げ、打ちおろす。トラはこれをササっと横に跳んでかわしちゃった。地面に足をついたかと思ったらそのまま突進してくる。
 生意気な。返り討ちよ。
『ばかもん! よけんか愛良!』
「うるさーい! なめんなー!」
 下段にかまえていた木刀を、トラの頭めがけてすくい上げる。
 確かな手ごたえを両手に感じた。うん、ばっちり。
 トラは顎をしゃくられて、後ろに吹っ飛んだ。もう起き上がって来ない。はい、戦闘終了。
 ぴくぴく震えてたかと思ったら、トラは動かなくなって、すぅっと消えていく。夢魔は無力化すると消えていくんだ。
『ほぅ、なかなかやるようになったのぅ』
 魔剣がひょうひょうとした口調で話しかけてくる。いや、頭ん中に思念送ってきてるんだっけ。まぁややこしいから話でいいか。
「狩人になってもう一年だもん」
 わたしは、十二で家業の狩人を継いだの。狩人は、依頼を受けて悪夢にさいなまれる人の原因を狩る職業で、世間ではあんまり知られてないんだけど、行くとこに行ったら判るんだって。わたしはその辺の大人の事情は知らない。ただ、お父さんが受けてきた依頼にしたがって夢の中に入って夢魔を狩るだけだから。
 お母さんが狩人だったんだけど、五年前に夢の中から帰ってこなくて、今も行方不明なんだ。だからわたしは家族の反対を押し切って、修練して狩人になった。いつかお母さんを見つけられるように。
『それはいいが、先程のが核ではないようじゃの』
 核は、悪夢をつかさどる中心のこと。そいつを倒さないと依頼主の悪夢は消えない。もっと強いのがいるってことね。
「よぉし、それじゃさがそうか」
 わたしは木刀をしまって、歩き出した。
 夢の中は、当然その夢の主の経験とか、希望とか、不安とかそういったものがごちゃまぜになった景色だ。深いところまで行くと他の人の夢ともつながったりするらしいよ。
 あ、大きな画面のテレビだ。これはプロ野球の試合かな?
 画面が変わった。あれ、これ大喜利?
『愛良、来るぞ。気を引き締めぃ』
 魔剣の忠告にわたしは柄を握り締めた。
“座布団全部とっちゃいなさい”
 聞きなれた大喜利のフレーズが聞こえて……。
 座布団飛んできた!
 でかっ! 何この大きさ、二メートルあるよっ!
「ひぃぃ!」
 伏せてかわしたけど、これが核?
「大喜利に恨みでもあるの?」
 思わずつぶやいた。
『こんな奴を切るのか?』
 魔剣がぼやいてるけど、あの座布団からはすごい負のエネルギーが伝わってくるじゃない。間違いないよ。
「そうみたいね。さぁいでよ我が魔剣、サロメ!」
 柄を握って、引き抜いた。
 光を反射してまばゆく輝く魔剣。うん、綺麗ねー。
 って悠長にしてる場合じゃなかった。
 座布団が反転してまた飛んでくる。また大きくなってない? どこまでデカくなりゃ気が済むのっ!
「うりゃぁ!」
 サロメを振り上げる。手ごたえはあるけど、座布団の端っこを切っただけ。
 中から飛び出る大量の綿に視界を奪われた。
 ちょっと、敵どこ?
『上じゃ!』
 サロメの声がしたが遅かった。
「むぎゃっ!」
 思い切り潰されて地面に突っ伏した。
「うぎゃー、つぶれる!」
 上からのしかかられて苦しいっ。息がつまるっ。視界がぼやけてきた。
『何をしておる愛良! ここで倒れるつもりか!』
 うるさいよっ。言われなくたってこんなところで倒れたくないんだから。お母さんをいつか見つけるんだ。
 ……それに、座布団で圧死なんて笑えなーい!
「力を解き放て、サロメ!」
 ありったけの力を振り絞ってお腹から声を出す。
 右手に握られた魔剣が神々しい光を放った。
 もごもごっと音を立てて、座布団が身もだえした。いや、生き物の形じゃないから身もだえも変なんだけど。
 ヤツの下から脱出!
「悪夢の核よ、消えされーっ!」
 わたしは力いっぱい、サロメを座布団にうちおろした。
 ――ぼふっ。
 なんともマヌケな音がして、座布団が砕け散った。
 勝った、けど、……なんだかなぁ。
「と、とにかく勝利は勝利。これで依頼人も悪夢に悩まされることはないよね」
『まぁ、な』
 サロメも腑に落ちないらしい。
「んじゃ、かえろっか」
 依頼人にあったら、よくもまぁこんな悪夢をみたもんだねって、座布団一枚あげようかなっ。

(了)

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あとがき

 この作品は、拙宅チャットにて開催した「お題バトル」で執筆した作品です。

お題:大喜利、野球、扉、破壊、創造、猫、くるま、お菓子、飼育、新聞、カフェ、電話、膨張
使用お題:大喜利、野球、破壊、猫、くるま、膨張
原稿用紙7.7枚。執筆時間45分。

 短時間で世界観までしっかり描けている、と参加者の皆様にお褒め頂いたのですが、実はちょっとズルしてます。
 というのも、この世界観は、こんな作品を書いてみたいと前々から考えていたものなのです。更に大本をたどれば、主人公の愛良と魔剣サロメ(じぃさん人格なのにサロメなのは謎(笑))は、TRPGで遊んだ設定をほぼそのままいただいて来ています。遊んだTRPGが西洋ファンタジーのシステムだったので愛良はアイラとカタカナだったのですが。
 ということで構想時間は数年、という世界設定なので執筆時間が短めで済みました。一度書いてみたいとずっと思っていたので、この機会に書けてとても嬉しいです。
 もしもシリーズで書けるならば、また書きたいなぁと思います。次々回作の候補にしてみてもいいかなぁ、と思いつつ。

 では、また次の作品で。

2012年 1月14日 執筆
2012年 1月15日 編集

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