昼寝してたらエロ勇者にされた件

 なんとなく学校に行って、なんとなく友達って呼べる連中とダベって、なんとなくご飯食って寝る。
 そんなおれの生活は、なんとなくな昼寝の間に音もないままに崩れ去った。

 気が付いたら、見たこともないような、それこそゲームやアニメが実写化したかってぐらいのファンタジックな建物の中に横になってた。
「おぉ、勇者様、よくぞ我が世界へ!」
 やっぱりファンタジーな服装の連中が、おれが寝かされてる台の周りで土下座してる。
 はぁ? 勇者?
 この景色、このカラフルな髪の色白で彫の深い顔の連中、どう見てもここはおれの部屋じゃないし、撮影セットとかじゃない限り日本でもない。
 思わずほっぺをつねってみた。痛い。
 まじ? これって、異世界転移ってヤツ?
「勇者様が驚かれるのも無理はありません」
 この場にいる一番の年寄りジィさんが、でっかい杖で床をゴンゴン鳴らしながらおれのそばに来た。
 ジィさん、神殿の長(おさ)とか言う人の話によると、この世界、アイズライルって名前らしい――は魔王軍の侵攻に悩まされていて、異世界から有能な若者を転移させてきて戦ってもらっているんだと。
 まんまじゃねぇか! そんなもん、世の中にあふれかえってるラノベでお腹いっぱいだっつーの。ってか設定にひねりがないぞ三流め!
「……勇者、ってったよな」
「はい。この剣を使えるという条件でさまざまな異世界に召喚魔法を施した結果、引っかかったのがあなた様でございます」
 引っかかったって、人を罠にかかった害虫みたいに言うなよ。
 ジィさんがうやうやしく出してきた剣は、なんか雰囲気からしてヤバい。なにがヤバいって説明できないけどとにかくヤバそう。
「さぁ、これを手に取り、魔王軍を蹴散らしてくだされ!」
 土下座したジィさんが掲げ持つ剣の周りで、他の連中も土下座した。
 害虫駆除シート的な勇者コイコイ召喚をあっちこっちの世界にばらまいたジィさんが差し出したアヤシげな剣。
 イヤすぎる。
 おれが手を伸ばさないでいると、連中は土下座スタイルのまま顔をちょっと上げて上目でおれを見てる。
 ひぃぃ。
 ずっとこのままはイヤだから剣を取った。すると、辺りが妖しいピンクの光に包まれた。
 どぎついピンクってなんだよ。こういう場合、神々しい白光とかじゃないのかよ。
『はあぁぁン! イイ! いぃわァあ! もっとぎゅっとシテぇ』
 ちょっ? 何このAV女優な声。
「おおぉ」「素晴らしい!」「あなたこそ勇者の中の勇者様!」
 ばっと輝く土下座マン達の恍惚とした顔。何がどうなってんだっ?
「あなた様はその剣にとても気に入られたのです」
 すっと立ち上がったのは若い女。ゲームとかだと神官って感じの白いローブを着た、薄い青のロングヘアの美人だ。
「はじめまして、勇者様。わたしはシャイネ。見ての通り神官です。勇者様と旅を共にすることになる者です。よろしくお願いいたします」
 カンペでもどこかに持ってるのかってぐらいスラスラ言ったその人、シャイネはおれのそばまでやってきた。
 こんな美人と旅ができるなら、異世界転移だか転生だかも、悪くないかもしれない。
 この剣はすごくアヤシイっぽいけど。

 神殿の別室でシャイネからいろいろと聞いた。
 魔王軍との戦いは、最前線の戦士達が頑張ってるらしいけど圧され気味だそうだ。
 そこで強力な魔剣と、それを扱える勇者に頼ろうとなったわけだ。
 この剣は、もともとこれだけでも充分強かった。けれど魔王相手には今一つ決定力に欠けるってことで力の強い英霊を宿そうとしたら、何をどう間違ったか力の強い淫魔が封じられた。
 普通なら大失敗作だろそれ、なんだけど、これがまた強いもんだから使えるんだと。
 けど、クセが強いから使い手はすごく選ばれるとか。まぁそりゃそうだわな。
「コイツに合う使い手の条件って?」
「わたしは詳しいことは判りませんが、よく寝る人、だそうです」
 その寝るはどの寝るなんだろうかと不安に思いつつ、確かにおれはよく昼寝するし夜も快眠だよなと納得することにした。
「コイツを以前使ってたヤツっているのか?」
「はい。ですがみなさん……」
 シャイネが目をそらした。
 魔王軍との戦いで命を落としたってことだな。じゃないとコレがここにあるわけがないし。
『みんなもうちょっと強いと思ったのにぃ。ちょっと吸い取ったらすぐに弱っちゃってぇ』
 なにこの不穏な付け足しっ!
『アタシ、サーヤよ。ヨロシクね。あなたならたっぷりヤっちゃっても大丈夫みたいだし楽しみぃ』
 サーヤとかちょっと清楚っぽい名前のくせして淫魔かよ。
「……おれは真鍋利久斗(まなべりくと)だ」
 サーヤにというよりシャイネに挨拶した。
「マナベリクト様ですね」
「苗字と名前をつなげて呼ばれるのもなあ。それじゃ、リクでいいや」
 ……母さんがそう呼んでた。
 リクくん、リクくんって、うっとーしーぐらいにかまってきて。
 おれがいなくなったことに気づいてんのかな。半狂乱になってないかな。
「リク様。……リク様?」
「あぁ、いや、何でもない」
『ママぁ、ぼくちゃんママと離れて寂しいですぅ、って心で泣いてるのよネェ。カァワイィい。そういうプレイが希望ならアタシがママンになってあげてもイィのよぉ?』
「うるせぇ! そんなんじゃねぇだろねつ造すんなこのビッチがぁ! 大体、親なんてガミガミうるさいから離れてせいせいするってもんだ」
 郷愁吹き飛ばすサーヤを思わずガンっと床にたたきつける。
「仲が良いのはよいことです」
 シャイネがくすくす笑ってる。これを仲いいとか、天然ちゃん? それとも変人ちゃん?
 すごく困難な旅になりそうな予感しかしない。

 旅は順調だ。
 さすが力の強い魔剣って言われてるだけあって、この半年で結構たくさんの魔物を倒してきたけどおれは怪我どころか攻撃を受けたこともない。
 今まで特に運動とかしてこなかったおれがどうしてそんな強いのかって言うと。
『さぁ、リックぅ。今日もたくさんヤるわよぉ?』
 コイツのせい、いや、おかげなんだけど。
 サーヤはおれの性よk、いや、精神力を自身の力にしている。敵にサーヤをかざすと、貯めていた力を発揮して敵はまさに蒸発、ってな具合だ。
 それはおれの精神力が高い、ということなんだけど。
 サーヤに精神力を与える手段が、だな。
 夢の中で擬人化したコイツと……。
『昨夜もいっぱいシたしぃ。サーヤ、今日もガンガンイケるわよぉ』
「そういうことを外で言うなっ!」
『恥ずかしがってるのォ? きゃははは。あんなコトしておいてそれはナイわぁ』
「だぁから言うなっての! もうすぐ村に着くから、おまえは黙ってろよ!」
 コイツの声がだだもれになったら、おれは途端にエロ勇者とか言われちまう。まぁ、エロいのは認めざるを得ないかもしれないけど、わざわざそんな風評を広めたくない。
『はいはーい。複雑なオトコゴコロなのねぇ』
 サーヤはそれっきり黙ってくれたから、ほっと一安心だ。
 もう一つ安心なのは、シャイネがおれとサーヤの会話の内容を理解できていない、ということだ。
 サーヤの仕組みについては、おれが寝ている間にサーヤがおれの精神力、ゲームっぽく言うとMPをちょっともらってる、ぐらいに認識しているっぽい。
 まさかまさか、夢の中とはいえあんなコトやそんなコトをしているとは思ってないし、そもそもそういった知識がまったくないみたいだ。
 おれより二つ年上で十八歳なのにそれはそれでどうなんだ? って思うけど、純潔を守らないといけない(らしい)神官だからそっち方面は意図的に情報を遮られてたりするのかもしれないな。
「次の村はちょっと休憩で、夕方までに大きめの町まで行くんだっけ、な」
「はい。その方がリク様もしっかりと休むことができるかと」
 シャイネがしっかりと行程を考えてくれているおかげで、おれは余計なことを考えなくていい。
 おしとやかで美人で頼りがいもある。一緒にいるのがシャイネでよかった。
 ってことで、次の村はほぼスルーか。
 そんなことを考えながら歩いてると、村の方から小さな男の子が二人、走ってきた。
「わぁ、本当に勇者様が来た!」
「それが魔剣? すごーい! 見せて見せて!」
「魔物たくさんやっつけてるんだよね。カッコイイ!」
 うるさいぞおれは見世物じゃない、……って、おれ、尊敬されてる? 子供にこんなふうにきらきらした目で見られるの、人生初かも。
「こら、二人とも! 勇者様は魔物と戦ってお疲れだから邪魔しちゃだめよ」
 子供達の後を追いかけて、母親かな? 女の人が小走りで来た。
 怖そうだけど、優しそうで、ちょっと母さんに似てるかも。
 そういや、おれが急にいなくなって元の世界じゃどんなふうに扱われてるんだろ。昼寝の最中だったから、学校から帰った痕跡があるのに姿が見えない、ってことで、事件に巻き込まれたとかになってるのかな。
 もう、帰れない……、んだろうな。こういうパターンって。
「勇者様、よかったら休憩していってください」
 母さんに似ている、子供達の母親の言葉に甘えることにした。

 この世界、アイズライルは不思議だ。
 文化は中世よりちょっと近世に近いぐらいかな。けど魔法がいろいろあって現代日本より便利なところもある。
 移動に関しては、なにせ中世レベルだから乗馬か馬車か徒歩。だから魔王が拠点にしている最果て山脈までここからさらに半年かかる。
 情報伝達の魔法はあるのに、移動の魔法はないらしい。
 おれが勇者だってのがこんな小さな村にまで伝わってるのは、世界レベルで「おふれ」が出たからなんだって。
 そんなことをおっかさん――子供達の母親を心の中でこう呼ぶことにした――が教えてくれた。
 召喚の儀式があるなら移動の魔法も使えそうなもんなのに、ヘンだよな。魔王んとこまで送ってくれたらいいのに。
「ねぇねぇ! 勇者様ってすごく強いんだよね」
「魔王をやっつけて世界を平和にしてね。そうしたらお父さんもお母さんも安心するから」
「ぼく、勇者様みたいな強くてかっこいい男になるんだ!」
「戻ってきたら剣、教えてね」
 話の途中でも遠慮なく子供達がなついてくる。
 ちょっとウルサイけど、悪い気はしない。
 おれ、今までずっと「一番下」だったから新鮮だ。学年が上がって「先輩」の立場になっても、リーダー格は他のヤツだったから。
 小さいから子供だから弟だから、って、理不尽なこともあったけど、得なこともけっこうあったと思う。
 この旅が終わったら、か。
 ここに残らないといけないとすると、きっちりと職について、いい人見つけて結婚して子供作って、ってことになるのかな。
 その、いい人ってのがシャイネみたいな人なら嬉しいんだけど。
 ……帰れないなら、せめて家族にぐらいは、何かメッセージとか残したかったかも。
 なんとなく生活して、それが当たり前だと思ってたから、こっちに来る直前とか、ちょっとうっとーしーって思ったら反抗ばっかりしてた。
 あー、考えが暗いぞ。おっかさんが母さんに似てるからこんなこと考えちゃうんだろうな。
「リク様?」
 シャイネがちょっと心配そうに見てくる。おれ、暗い顔しちゃってるのかな。
「あー、いや、なんでもないよ。さて、そろそろ行こうか。――休憩させてもらってありがとうございました」
 最後のは、おっかさんにだ。
「えー、もう行っちゃうの?」
 ぶーたれてる子供達が、ちょっと可愛い。
 子供達の頭に、ぽんぽんと手を置いてから、おれは立ち上がった。
 今までは、呼ばれたから、言われたから、仕方なく旅してるってのが正直なところだったけど、こいつらの笑顔を守る戦いってのも、いいんじゃないかな。

 シャイネと仲良く、サーヤとは……、な旅が続いて、いよいよ魔王が治める最果て山脈にやってきた。
 サーヤの力の使い方も慣れてきて、必要以上に消耗することもなくなったおれは、ここまで無傷でやってきた。
 だけどここはボスの根城だ。今までのようにはいかないだろう。
「さぁ、気を引き締めて行こう」
『だーいじょーぶよォ。アタシにまっかせて』
 ミャハッ、とか言いだしそうな勢いでサーヤがシリアス気分に水を差してきた。
 ちょっと不安だけど、コイツに頼るしかないのは確かだ。
「魔王スチュ、一体どのような力を持っているのでしょう」
 シャイネもちょっと不安そうだ。
 ここはおれがカッコよく。
「だいじょ――」
『だからァ、だいじょうぶだって。スチュがどんな力を持ってようと、このサーヤが大人しくさせてア・ゲ・ル♪』
「そうですね。サーヤ様とリク様がいらっしゃれば、勝てますね」
 シャイネが安心したような顔になった。
 いいとこ持ってかれたっ!
 くそぅ。進むぞっ! 魔王を倒すのはおれだって見せてやる!
 と、勢いついたのに。
 魔王の城まで何もなかった。まったくなんにも。魔王のおひざ元なら、強力な力を持った幹部クラスとか次々に出てきそうな感じなんだけど、それどころか下っ端も出てこない。
 これは、あれか、下手に手出しせずに魔王の元までおびき寄せて、そこで一気にけしかけてくるって作戦か。
 何が、どれだけ待ちかまえているのか。
 緊張する手に汗をにじませながら、おれは玉座の間の荘厳で重い扉を、ゆっくりと押し開けた。
 中は、だだっ広かった。奥に玉座があって、黒い大きな塊が座ってる。
 それが、のっそりと立ち上がった。でかい!
 邪悪そうな頭の上に二本の角、背中には大きな翼。体つきがすごくたくましい。太くて長い尻尾がしなやかにうねっている。
 あれが魔王か。なるほど強そうだ。
 どんな攻撃が来ても対応できるように、おれはサーヤの柄に手をかけながら、じりじりと前に進んだ。
「貴様が勇者を名乗る者か、どのようなつわものかと思えば、ふん、脆弱な人間風情が」
 魔王の前まで進み出ると、すごく馬鹿にしたように言われた。
「リク様を、勇者様を侮ると痛い目を見ますよ!」
 隣のシャイネが魔王を睨み据えている。
 おれが馬鹿にされたから怒ってくれてる……、んだったらいいなぁ。
「ふふん。ここまでやって来られたのは褒めてやろう。だが――」
 魔王が右手をゆるりとおれ達にかざした。
 おれは咄嗟にサーヤを抜いて魔王の手に掲げる。
 眩しい光が交錯して、思わず目を閉じた。
 光が薄らいだ頃に目を開けてみると、シャイネが気を失って倒れている。
「ほほう、我が攻撃を無効化するとは、なるほど神官の女が言うように少しはやるようだな」
 魔王が、本気になった?
 よし! ここからがおれの本当の、最後の戦いだ。
 おれがこの世界を、みんなの笑顔を守る!
 ……はずだったのに。
「こおぉら! スチュ! いい加減にしなさァい!」
 これは、サーヤの声? と驚いたら、剣から淫魔が出てきた。毎度夢の中で(ピー)なことをしてた、サーヤだ。
 一体、何が……。
「げぇっ! かーさん?」
 スチュが、今まで威厳に満ちた態度でおれを見下ろしていた魔王が、明らかに慌てふためている。
 え? えぇっ? サーヤが魔王の母親?
「人間とは共存とまではいかなくても棲み分けをして、互いに干渉しないようにってあ・れ・ほ・ど! 言っておいたのに! アタシがチョイっと出かけて帰って来られない間に好き勝手やって、この悪ガキめ!」
「ひぃぃ! ごめんよかーさん! もうしません」
 サーヤが腰に手を当ててふんぞり返ると、魔王はすっかり委縮して降参した。
 何なんだ、これ。
「リックぅ、ここまで連れてきてくれて、ア・リ・ガ・ト・ね。何せこの世界って移動の魔法がないし、アタシは何をどう間違ったのか剣に封じられちゃったしィ。こうやって運んでもらうしか、なかったのヨォ」
 サーヤは、おれにはいつもの調子で言って、頬にキスをした。
 こうしておれの魔王退治は、魔王が母親にいさめられて終わるっていう、誰がそんなオチ想像できっかよ、な結果に終わった。
 この世界に来た時に「設定にひねりがないぞ三流め」なんて考えたからこうなっちゃったんだろうか……。

 気絶しちゃったシャイネを抱きかかえて、おれは魔王の城を後にした。
 少しして、シャイネが目を覚ました。
「リク様? ここは、外……。それでは、魔王を倒されたのですね!」
 あんまりにも喜んでるから、そういうことにしておいた。
 スチュはもう人間を攻めないって約束したし、サーヤがスチュを監視すると同時に人間界にも変な動きがないのか、使いをよこす、みたいなことになった。魔王の約束はともかく、あれだけ魔王を震え上がらせたサーヤがいるなら多分もう大丈夫だろうからな。
 今度魔王が何かしてきたら、それは倒したはずのヤツが復活したってコトで。
「とにかく、これで平和になったよ。……おれも、この世界でどうやって生きてくのか、考えないといけないな」
 できれば君と一緒になって……。
「勇者様はお役目を終えられたら元の世界に戻れる仕組みになっていますよ? 話していませんでしたか?」
 は、はい?
 聞いてないよ、と言いかけたおれは体に違和感を覚えた。
「それでは、勇者様、ありがとうございました。元の世界に戻られてもご活躍なさいますよう、お祈り申し上げております」
 シャイネが手を組み合わせて祈ると、おれの目の前の景色が歪んで――。
 なんで、移動魔法がないのにそういうトコが充実してんだよっ!

 目が覚めたら、ベッドの上だった。
 おれの部屋だ。もちろん日本の。
 帰ってきたんだ。
 ……それとも、実は長い夢だったってことは……。
 体を起こして部屋を見回した。カレンダーに目が止まった。
 一年経ってる。
 どうなったんだ? どうなってる?
 おれはベッドをおりて急ぎ足で部屋を出た。夕方みたいで、家には誰もいない。
 靴を履いて外に出る。
 変わってないようでいて、ちょっと何かが違う感じ。
 ぼーっとしてると。
「りく、と?」
 懐かしい声。そっちを見ると、豆鉄砲で撃たれたハトのような母さんが。思わず笑っちゃった。
「利久斗! 利久斗ぉぉ!」
 母さんが突進してきた。そのままの勢いで抱きしめられて息が詰まった。
 ただいま。
 むせて言葉にならなかった。

 それからおれがどうなったか、ってと。
 まずは警察とかマスコミとかの対応が大変だった。
 まさか「昼寝してたら突然異世界に呼ばれて、そこでエロ勇者やってました、てへぺろ」なんて言うわけにもいかないから、ずっと「覚えてない」で通した。
 結局、何かの事件か事故に巻き込まれて記憶がなくなったけど何とか家に帰ってきた、という設定になった。
 この世界から消える前は高校一年になりたてだった。本当なら今は二年生なんだけど、一年生として通い直すことになった。
 くそっ。どうせなら時間巻き戻して連れてったその瞬間に戻してくれればいいのに!
 アイズライルに行っている間にいろいろと成長してたらよかったんだけど、育ったのって、夜のアレコレだけだよな。
 ……でも、「一番下」が当たり前だったおれが、あの世界を救いたいと心から思ったのは、本物の気持ちだ。
 置かれた境遇を嘆いてもどうにもならないから、あの時の気持ちを思い出して、まぁ、生きてくしかない。
 とか、ガラにもなく考えながら、とりあえず今日も昼寝だ。

 ――勇者様! 世界の危機をお救いください!
 ん? この声って? 夢だよな。それとも……。

(了)


 作品を気に入っていただけたら拍手をください。励みになります。

あとがき

 この作品は、サイト開設16周年の記念リクエストで書き上げました。いただいたお題は「子供以上、大人未満」です。
 最初のプロットは、トラック事故で死んでしまった主人公が異世界に行って、精神的に成長して「子供」を脱して行く、という普通の(?)異世界転生ものでした。
 それが、書き始めたら「ちょっとひねりがないなぁ」と思いはじめ、なぜかこんな路線に。
 思いつきと勢いって怖いですね(笑)。

 とはいえ、ただのエロストーリーではリクエストに添えないので、リクくんには精神面でちょっとだけ成長してもらいました。
 ラストの後、どうなるのかは読者様のご想像にお任せいたします。

 かみたかさちさん、リクエストありがとうございました。


2016年 9月 8日 脱稿
2016年 9月 9日 編集

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