きらきらさんのおくりもの

 まあちゃんは、くまさんのお人形が大好きです。今日も幼稚園から帰ってくると、早速おもちゃ箱から大きなくまさんを引っ張り出してきました。
 このくまさんは、まあちゃんが赤ちゃんの時にサンタさんがプレゼントしてくれたものです。まあちゃんはクリスマスの朝にくまさんを見つけると「わんわん、わんわん」と大喜びでした。くまさんに抱きついたり、くまさんの首に巻いてある飾りのリボンを不思議そうに引っ張ったりしています。
「まあちゃん、それはわんわんじゃなくて、くまさんだよ」
 お兄ちゃんが、親切にまあちゃんに教えてあげます。
「まあちゃんは、まだ赤ちゃんだから、動物さんはみんなわんわんだって思ってるんだよ」
 お父さんがお兄ちゃんに言うと、お兄ちゃんは、ふーん、おもしろいね、と笑いました。
 まあちゃんが大きくなって幼稚園に通うようになると、くまさんに「よーよちゃん」という名前をつけました。
 どうしてよーよちゃんなの? とお母さんが聞くと、まあちゃんは「だって、よーよちゃんがそういったんだもん」と嬉しそうに答えました。
 まあちゃんが、いつものように、よーよちゃんを赤ちゃんにして家族ごっこをしていると、お兄ちゃんが学校から帰ってきました。
「おにいちゃん、おかえり」
 お兄ちゃんが大好きなまあちゃんは、飛んで行ってお兄ちゃんに抱きつきます。
「ねえねえ、おにいちゃん、かぞくごっこしよう」
 まあちゃんがお兄ちゃんの腕にしがみついておねだりしました。お兄ちゃんは「うん、いいよ」とうなずいて、二人で遊び始めました。まあちゃんがお母さん、お兄ちゃんがお父さん、よーよちゃんが赤ちゃんです。
 二人が仲良く遊んでいるところを見て、お母さんは安心して洗濯ものの片付けを始めました。お兄ちゃんが、まあちゃんの遊び相手になってくれて大助かりです。
 でも、洗濯ものが片付いた時、子ども達のいる部屋から、まあちゃんの泣き声が聞こえてきました。悲しそうな泣き声に、お母さんはびっくりしてお部屋に行きました。
 お部屋の中では、床にぺたんと座って上を向いて、顔をくしゃくしゃにして大声で泣いているまあちゃんと、まあちゃんのそばにおんなじように座っている、困った顔のお兄ちゃんがいます。
 二人のそばには、よーよちゃんが寝転がっています。でもなんだかいつもとちょっとだけ違って見えます。
 よーよちゃんの首に巻いてあるリボンが破れているのです。
 お母さんは、まあちゃんが泣いているのは、よーよちゃんのリボンが破れたからだ、とすぐに気が付きました。
 まあちゃんは、お母さんが部屋に来たとわかると、ころばないかと心配するぐらいのいきおいでお母さんに抱きつきました。
「おにいちゃんが、おにいちゃんが! よーよちゃんの! まあちゃんやめてっていってるのに」
 泣きながらなので、まあちゃんはいつものように順番よく話すことができません。
「お兄ちゃんが、よーよちゃんのリボン破っちゃったの?」
 お母さんが聞くと、まあちゃんが勢いよくうなずいて、また大声で泣き始めました。
「ぼくがね、よーよちゃんだっこさせて、って言ってだっこしたら、まあちゃんがだめってひっぱったから」
 お兄ちゃんが言います。
 二人で引っ張り合いになって、よーよちゃんのリボンが破れてしまったのです。
「ぼく、あやまったのにゆるしてくれないの」
 お兄ちゃんも悲しそうな顔でお母さんにうったえかけます。
 お母さんは二人を抱きしめて、頭をよしよしとなでました。
「お兄ちゃん謝ってるし、許してあげて。よーよちゃんのリボンはお母さんが縫ってあげるから」
 まあちゃんは、ちょっとだけ泣きやんでお母さんの顔を見ました。
 けれどお兄ちゃんの顔を見るとまたすぐに泣きだしてしまいました。
「ぬっても、もとどおりにならないもん! おにいちゃんきらい! どっかにいっちゃえ!」
 そう言って、お兄ちゃんを力いっぱい押しました。
 お兄ちゃんは尻もちをついてしまいました。
 それまでは、まあちゃんに悪いことをしてしまったと少ししょんぼりしていたお兄ちゃんですが、大好きなお母さんから引き離されてしまって、むかむかとした気持ちになってきました。
「それなら、もうまあちゃんとあそばない。ぼく、ともだちのところに行ってくる」
 お兄ちゃんは立ち上がって、ぷいと横を向いて、走って部屋を出て行ってしまいました。
 遅くならないようにね、とお母さんが声をかけると、ちょっと機嫌の悪い声で「わかってる」とだけ返事がありました。そしてすぐにお兄ちゃんは外に飛び出していってしまいました。
「まあちゃん、今のはよくないよ。お兄ちゃんはわざと破ったんじゃないんだし、まあちゃんに謝ったんでしょ? まあちゃんもお兄ちゃんを押したことは謝らないといけないよ」
 お母さんの言葉に、まあちゃんはぷうっとほっぺたを膨らませました。
 まあちゃんも、本当はわかっているのです。お兄ちゃんが謝ってくれた時に、いいよ、と許したかったのです。でもよーよちゃんの破れたリボンを見ると、すなおな気持ちが口から出てこなかったのでした。
 いつも遊んでくれるお兄ちゃんがいなくなってしまって、まあちゃんは一人でよーよちゃんと遊びました。
 けれど、ちっとも楽しくありません。大好きなよーよちゃんをやっとお兄ちゃんから取り返したというのに、心の中に雨雲がもくもくとかかっていました。
 ぎゅっとよーよちゃんを抱きしめて、目になみだをためたまま、まあちゃんは床にごろんとねころがって、そのままねむってしまいました。
 まあちゃんがお昼寝から目を覚ますと、よーよちゃんのリボンがきれいになっています。まあちゃんがねむっている間にお母さんがぬってくれたのでしょう。
 よかった。とまあちゃんはにっこり笑いました。
 窓の外はすっかり暗くなっています。
 時計を見ると、もうすぐごはんの時間です。今日のばんごはんは何かな? とまあちゃんは台所に行きました。
 まあちゃんの大好きなお味噌汁を見つけて嬉しくなりました。でもお母さんのようすがいつもとちがいます。
 お母さんは、まあちゃんが台所に来たのに気がついて笑顔を見せてくれました。けれど、それは本当の笑顔ではありません。何かを気にして、まあちゃんのことをちゃんと見ていない。そんな感じがします。
「まあちゃん、起きたの。ごはん食べる?」
 優しくたずねてくる声も、いつもとちょっとだけ違って、なんだか悲しそうです。
 ふと、まあちゃんは気が付きました。いつもごはんの時にはいっしょにいるお兄ちゃんがいません。
「おかあさん、おにいちゃんは?」
 まあちゃんがたずねると、お母さんは答えます。
「お兄ちゃんね、お友達のところに遊びに行ったまま、帰ってきてないの。お友達のところにお電話してさがしているんだけど、見つからないの」
 お母さんの声がふるえています。目になみだのつぶがうかびました。
 まあちゃんはびっくりしました。お兄ちゃんがいないこともですが、お母さんが泣いているということにもっとびっくりしました。お母さんが泣いているなんて、まあちゃんは今まで見たことがありません。
 そうしていると、おまわりさんが家にやってきました。まあちゃんの幼稚園に交通安全のお話をしに来たおまわりさんです。あの時は、にこにこ笑顔で話してくれていたおまわりさんが、今日はちょっとこわい顔です。
 何か、いつもとちがう大変なことが起きているのだと、まあちゃんはこわくなってきました。
 お母さんがおまわりさんとお話をしてから戻ってきました。
「おにいちゃん、みつかった?」
「ううん。だから、おまわりさんにも探してもらうようにお願いしておいたのよ。すぐにお兄ちゃん見つかるからね」
 お母さんはなみだをふいて、まあちゃんに言いました。
 けれど、まあちゃんがおふろに入っても、寝る時間になっても、お兄ちゃんは帰ってきません。
 お父さんがお仕事から帰ってきても、お兄ちゃんはいないままです。お父さんはまたでかけていきました。お兄ちゃんをさがしに行ったのです。
「まあちゃんはもう寝る時間よ。明日になったらお兄ちゃんきっと帰ってるから、おやすみなさい」
 お母さんに言われて、まあちゃんは布団に横になりました。
 まあちゃんは寂しくて、よーよちゃんをとなりに寝かせてぎゅっと抱きしめました。
「よーよちゃん。どうしておにいちゃん、かえってこないのかな。まあちゃんがいなくなっちゃえっていっちゃったからかなぁ。このままおにいちゃんがかえってこなかったら、どうしよう」
 よーよちゃんに話しかけながら、まあちゃんはしくしくと泣きはじめました。
 大好きなお兄ちゃん。いつもまあちゃんと遊んでくれて、ちょっとわがままを言ってもあまり怒ったりしたことのない優しいお兄ちゃん。このままいなくなってしまったらと思うと、まあちゃんのなみだは止まりません。
「おにいちゃん、ごめんなさい。おにいちゃんだいすき。だからかえってきて」
 まあちゃんは、よーよちゃんに顔をうずめるようにして、泣いたままねむってしまいました。

 朝になって、まあちゃんは目を覚ますと、なんだか窓の外がいつもより明るくきらきらとしています。
 不思議に思って、まあちゃんは窓を開けました。
 今日もいいお天気で、空はとても青くて気持ちがいいです。
 でもいつもと違うのは、空からきらきらと光がこぼれおちてきているのです。
 びっくりしているまあちゃんに、小さな光のつぶがいくつも降ってきます。
『お兄ちゃんと、仲良くね』
 空からやさしい声が聞こえてきました。
 まあちゃんは、はっと思いだしました。お兄ちゃんをさがしに、まあちゃんは部屋を飛び出しました。
「あ、まあちゃん、おはよう」
 ろうかでお兄ちゃんとばったり出会って、お兄ちゃんはいつものように笑っています。
「おにいちゃん、いつかえってきたの?」
 まあちゃんがたずねると、お兄ちゃんは首をきょとんとかしげます。
「ぼく、きのうは学校からかえってきてから、どこにも行ってないよ」
「だって、おにいちゃん、おともだちのところにいって、かえってこなくなって、おかあさんがしんぱいして、おまわりさんもきて……」
 まあちゃんはいっしょうけんめい、昨日の話をしました。昨日のことを思い出して、まあちゃんは悲しくなりました。
 でもお兄ちゃんは笑います。
「まあちゃん、そんなゆめを見たの? だいじょうぶだよ。ぼくどこにもいかないよ」
 お兄ちゃんは、まあちゃんの頭をよしよしとなでてくれました。
 まあちゃんは台所に行きました。お母さんが朝ごはんを作っています。
 お母さんに昨日の話をしても、お兄ちゃんは昨日は家にずっといたと言います。
 ゆめだったのかなぁ、とまあちゃんは首をかしげました。
 まあちゃんがお部屋にもどって、よーよちゃんを見ると、昨日お兄ちゃんと引っ張り合って破れたリボンが糸でぬってありました。
 やっぱり、ゆめじゃなかったんだ! あのおそらのきらきらさんが、おにいちゃんをかえしてくれたんだ!
 まあちゃんは、お兄ちゃんのところに走って行きました。そして、ぎゅっと抱きつきました。
「おにいちゃん、だいすき」
 これからは、お兄ちゃんともっと仲良くしようと、まあちゃんは思いました。

(了)


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あとがき

 この作品は、サイト開設13周年の記念リクエストで書き上げました。いただいたお題は「ある晴れた日の伝言」です。
 お題を頂いてすぐ、空がキラキラと光ってメッセージが聞こえる、というのが浮かんだので、どんな伝言かを考えました。先に頂いていたリクエストの作品が暗い感じのお話なので、こちらは明るく行こう、と、はじめて童話にチャレンジしてみました。
 自分の子ども達をモデルにしたので、9歳の息子にも読んでもらいました。「面白い」と言ってくれたので、子どもに伝わる童話が書けたと一安心です。

 恵陽さん、リクエストありがとうございました。
 それでは、また次の作品で。

2013年 5月25日 脱稿
2010年 5月26日 編集

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