守ってくれる人?

 高峰さんに助けてもらってから、何度か夢魔退治に出た。
 あれから、助けてもらうことは、確かになくなったんだけど。
「また来たの?」
「そんなこと俺に言われても」
 なぜか高峰さんは、同じ日に夢魔退治に行くとこっちにも来るようになった。
 高峰さんいわく、自分のところの夢魔退治が終わったら、なぜだかおまえのところに来てしまう、なんだって。
 わたしの方が時間的に早く夢魔退治に出るから、高峰さんが来る頃には大抵終わってるのが救いだ。これでまたピンチなところに来られて「こいつ使えねー」とか思われたらやだし。
 だから高峰さんと会っても、ちょっと話してすぐにさよなら、なんだけどね。
 これが、話の弾む相手なら嬉しいんだけど、ノリが悪いって言うか、口数少ないんだよ。
「また今日も会ったよ。なんとかなんないの?」
 お父さんの部屋に戻って愚痴ってみる。
「うーん、なんとかって言ってもなぁ。狩人が行きたいと意識して他の狩人のところに行く、という話は聞いたことはあるけれど、なぜだか判らないのに行ってしまう、っていうのは初めてだよ」
 そうなんだ。だったらその原因から調べないといけないね。
「そもそも、高峰さんってどんな人なんだろ。お父さん知ってる?」
「知ってるよ。夢見の集会所で会ったこともあるし、うちに来たこともある」
「えぇ? そうなの?」
「おまえもその時会ったぞ」
「うそっ? 覚えてないよそんなの?」
 衝撃の事実ってこういうのを言うんだ。
 お父さんが教えてくれたのは、こんな感じ。
 高峰さんは、悪夢のことをネットで調べてて、うちの内科の記事を見つけて、お父さんに直接相談したんだって。
 その相談の時に、わたしが部屋に入ってきた、って。二年ぐらい前って言うから、小五の頃か。
「ハルトくんと話をしている時に、おまえが部屋に入ってきて、今夜は夢のお仕事あるの? ってな。そこにいたのが夢魔や悪夢のことを聞きたがっていた人だったからよかったけれど、そういうことを全然知らない人だったら、変な子認定されてただろうな」
 苦笑するお父さんを見て、そんなことがあったっけ、って考えてみたら。
「――思い出した!」
 そう言えば、そんなことあったよ。部屋に入っていきなりあれはまずかった、ってあれからしばらく反省してたんだった。
 あの時のお客様が、高峰さんだったんだ。
 ぼんやりとしか覚えてないけど、すごく深刻な顔してたイメージがある。
「高峰さん、なんで夢の事を聞きに来てたの?」
「それは本人の許しもないのに話すわけにはいかないよ」
「そっか」
 じゃあ、今度夢の中で会ったら、聞いてみよう。

 それから三日後、夢魔退治もいよいよ佳境って時に高峰さんが来た。
「苦戦してるな、愛良」
 ……何気に名前呼びされてる。なんかすんごい格下に見られてるみたいでちょっとイラっとするんですけど?
「手出し無用だよっ。助けてもらってばっかりじゃ強くなれないもん」
 夢魔の攻撃をさっとかわしながら強がってみる。本当は助けてくれたら楽でいいんだけど。
「そうだな。頑張れ」
 高峰さん、あっさりと引きさがっちゃった。ちょっと、そこは「いやここは俺が」でいいんだよ?
 やることなすこと、ムカつく。
「ウザいよっ! 消えろぉ!」
 怒りを夢魔に叩きつけてやった。ふん、これぐらいはわたしにだってできるんだから。
「よくやったな」
 夢魔が消えて、晴れやかな夢の景色に戻った中で、高峰さんが言う。
 褒められるのは、……ちょっと嬉しかったりする。
「それじゃ、俺は行くよ」
 無事を見届けたから俺の仕事は終わり、みたいな言い方で、高峰さんは歩き去ろうとする。
「あ、ねぇ、ちょっと待ってよ。高峰さんって、うちに相談か何かに来たことあるでしょ?」
 高峰さんは足を止めた。けどこっちは見なかった。
「あれって、どうして――」
「おまえには関係ない」
 向こうを向いたままだったけど、いつもよりちょっと大きな声で高峰さんが言った。
「関係ない、って、もしかしたらうちと関わったからこうやって夢の中で――」
「関係ないって言ってるだろ!」
 怒鳴られた。ずっとこっちは見なかったけど、声で判る。本気で怒ってる。
 今まで、こんなに感情を見せたことがなかった。何を考えているのか判らないのも、イラってする理由の一つだった。
 けど、今は……、ちょっと怖くてわたしの口からは、声も出ない。
 高峰さんも、どうしていいのか判らないのか、その場にたたずんだまま。
『……しょうがないねぇ。黙っとったけど、話すしかないじゃろ』
 急に、場違いみたいな、おばあちゃんの声が聞こえてきた。……どこ?
『わたしゃサロモ。ハルトの魔器じゃよ。わたしらが黙っとることで、狩人同士がけんかすることはない』
 高峰さんの、魔器? しゃべるの? それも、サロモってサロメと似てる名前だね。
 そう思って高峰さんの魔器を見る。なるほど、サロメと似たような鞘に入ってる。
『そう、愛良が持っておるサロメとはちょいと縁があってねぇ。狩人が未熟なうちは話さんでおこうとおもっとったんじゃが』
 ハルトさんが、こっちを見た。驚き顔で、サロメとわたしを見てる。
 サロモばあちゃんが簡単に説明してくれた。
 サロメとサロモばあちゃんは、一対《いっつい》の双剣、みたいな関係だったんだって。それがちょっと訳あって離れることになっちゃって、再会したのは高峰さんがはじめてわたしのところに来た時で、二百年ぶりだ、って。
「サロメが『ワシゃ長生きだからな』とか言ってたのって、しょーもない冗談じゃなかったんだ?」
『お主にくだらん冗談を話してワシに何の得がある』
 むっ、一刀両断された。
『バァさんとハルトがこちらに来たのは、恐らくワシが壊されそうになったからだろう。愛良が強く「誰か助けて」と念じたのも影響しておるのやもしれんが』
 なるほど、相棒の危機にかけつけてくれた、ってことか。
『バァさんとは失敬じゃな。わたしがバァさんなら、おまえはもうろくジィさんじゃないか。折られそうになるとは情けない』
『やかましい。それは夢魔に魔器を奪われる未熟者が悪い』
 うっ、それを言われるとツライ。
『夢魔と狩人の実力を見極めて撤退を促さんからじゃ』
『促したところでこ奴は聞き入れんわ。ふん、ちょっと見ぬ間にますます口やかましくなりおって。ガミガミバァさんめ』
『だからバァさんと呼ぶなと言うてるじゃろ。少し前の事さえ忘れたかもうろくジィさん』
 ……ケンカはじめちゃったよ……。
 ののしり合う魔器は放っておいて、高峰さんを見る。
 あっけに取られてた高峰さんも、わたしを見て……。
 二人して、噴き出しちゃった。
「ごめんねハルト……、じゃなくて、高峰さん」
「ハルトでいい。そっちの方が呼ばれ慣れてる」
「そう? じゃあハルトさん」
「ん。ごめんって何が?」
「うちに来た理由、聞かれたくなさそうだったのに、しつこく聞いちゃって」
「……いや、俺こそ、怒鳴って悪かった」
 ちょっと困った顔になったハルトさん。
 なんだ、結構、優しいんだね。
『――帰るぞ愛良! バァさんの相手をしておると、疲れるわ』
『そりゃこっちの台詞じゃ!』
 あーあ、一対の剣とか言いながら、仲悪いんだね、サロメとサロモばあちゃん。
「はいはい。それじゃ、ハルトさん、またね」
「ああ、またな」
 ハルトさんが帰って行くのを見送ってから、わたしも渦巻トンネルに向かった。
 まだまだ判らないことだらけだけど一つ謎が解明して、ちょっとすっきり。

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