守ってくれる人?

 夏休みが終わった。二学期も頑張るぞー、それなりに。
 なんて、中途半端な決意がいけなかったのか、土曜日登校の帰りで、淳くんとばったり会ってしまった。
 ううん、淳くんと会うのは全然オッケーなんだけど、時間と場所がね。
 思いっきり下校時間で、正門の近くで。
 さっこちゃんは部活でいないけど、他の友達と一緒なのはよかった。
「あ、愛良ちゃん。よかったー。これ、咲子に届けてくれないかな」
 淳くんはわたしを見つけて、にっこにこで手を振ってきた。相変わらずいい笑顔だね。
 でも、判ってたけど、周りからの視線がフクザツ。
 淳くんが来て喜んでる女の子達が多いんだけど、わたしを名指しってところで空気が揺れた。
「あいつ、部活あるのに体操服忘れてってさ。母さんに頼まれたんだけど、まさか僕が教室に持ってくわけにいかないし、誰かにお願いしないとなって思ってたんだ」
「あ、うん、判った」
 淳くんから体操服の入ったナップサックを渡される時、ギャラリーから小さい悲鳴が聞こえてきた。淳くんと手が触れたとかなんとか、そんなことなんだろうなぁ。
 あぁ、これってまた月曜日に呼びだされる可能性が……。

 んでもって月曜日。
 きましたよ、やっぱり。前回よりも大勢のセンパイ達が。
「牧野さぁーん、いいかなぁ?」
 今度は誰かに呼びださせるなんてこともしないで、教室の入り口から五人のおねーさま達が手招きしてる。
 怖すぎる。
 でも今日は、土曜日の事を聞いてさっこちゃんがずっとそばにいてくれてるし、わたしが追っ払うって意気込んでる。
 ここは申し訳ないけど、さっこちゃんに任せようと思う。
「先輩方、ちょっといいですか?」
 でも、センパイ達に声をかけたのは、わたしの隣で立ち上がったさっこちゃんじゃなかった。
 桂さんだ。つかつかとセンパイ達に歩いて近づいてった。
「牧野さんへの用事って、土曜日の件ですよね」
「なによアンタ」
「関係ないでしょ。わたし達は牧野さんに用事があるの」
「関係なくないです。わたしはクラス委員です。クラスメイトが理不尽な目にあっているのは見過ごせません」
 凛とした声で、桂さんが言う。
「理不尽、って何だよ」
「いい子ぶってないで引っ込んどけ」
 先輩達がすごい声で脅してる。これは、やっぱりわたしがでてった方がいいかもしれない。淳くんとのことに何の関係もない桂さんがひどい目にあったら大変だ。
「そうやってたくさんで脅したって何もいいことないですよ? 先輩達、青井さんのお兄さんに好かれたいんでしょ? だったら近いところにいる牧野さんに変なことしない方がいいと思いますよ」
 桂さん、平然としてる。すごい、強い。
「牧野さんは優しい子だから青井先輩に告げ口とかしないと思いますけど、牧野さんが集団でいびられるのを、青井さんがいい気分で見てるわけないじゃないですか」
 そこでこっちをちらっと見た。先輩達もこっちを見る。
 わたしの隣で立ち上がったまま固まってたさっこちゃんが、そうだった、って感じでうなずいた。
「わたしもだけど、友達を困らせる人のこと、兄貴だってよく思わないと思いますよ」
 先輩達、うっ、ってなった。
「ほら、ここは下がっておいた方がいいってことです。って言うより牧野さんに取り入るぐらいの賢い態度の方が断然いいと思いますけど」
 先輩達は、仲間同士で顔を近づけて、ごにょごにょと何かを相談して、すごすごと帰って行った。
 しばらくしんとしてた教室が、桂さんの「ふあぁ、行ったー」ってため息まじりの声で、一気にどっと騒がしくなった。
「すげー、桂、かっけー!」
 男子達がはやし立てる。いや、あんたら全然頼りになんないのに騒ぐだけなのはどーなの?
 いや、それより大事なのは桂さんへのお礼だ。
「ありがとう、桂さん」
「今度こそガツンと言ってやろうと思ってたのに取られちゃった。でも、ほんと、ありがとう」
 わたしもさっこちゃんも、桂さんのところに行って頭を下げた。
「ううん。わたし、ああいうのだいっきらいだから。ちょっと怖かったけど、言ってやってすっとしたよ」
 桂さんが、ちょっと笑った。
「わたしも。気が合うね」
 さっこちゃんも笑ってる。
 二人とも、かっこよすぎ。二人が男の子だったらホレちゃうよっ。
 でもまぁ、同性に守ってもらうばかりじゃなくて、わたしももうちょっとうまくかわせるようにしないとな。

 それから、グループに新たに桂さんが加わったみたいな形になって、しばらくして。
「なんか、ヘンなウワサが流れてるね」
 さっこちゃんが言いだした。
「どんな?」
「愛良ちゃんとうちの兄貴が付き合ってる、みたいな。そこまでじゃなくても、愛良ちゃんは兄貴が好きなんだ、みたいなのも」
「……へっ?」
「ほんとに? 牧野さん、実はそうだったの?」
 桂さんに聞かれた。違う違うって首を振る。
「でもそんなウワサが流れてるの全然気づかなかったよ。誰が言いだしたんだろ」
「わたしも、部活の先輩から聞いたんだよね。違いますよって言っておいたけど」
「そのわりに、あんまりヘンなのが圧しかけてこないよね」
「そりゃ、咲子と桂が鉄壁ガードするって判ってるからじゃない?」
 鉄壁ガード、でグループのみんなで笑った。
「でもいつもわたしらがそばにいるわけじゃないし、ウワサをどこから聞いたのか、先輩に確認してみるよ」
 さっこちゃんが言う。
「でもこっちが騒いだら余計に怪しまれるんじゃないかな。ここは大人しくしておく方がいいのかも」
 桂さんが首をひねってる。
「……まぁ、それもそうか」
 さっこちゃんは、ちょっと納得してなさそうだけど、とにかく今はあんまり騒がないで、ヘンないちゃもんつけられたら応戦する、ってことになった。

 そこから数日経って。
 夢魔退治のお仕事がきた。
 今回はちょっと強いめって感じらしいから、手に負えなかったら逃げなさいって前置きをもらって、夢の中に入った。
『愛良、何を浮ついている。気を引き締めよ。冴羽とかいう小僧のことか?』
 夢に入るなりサロメのお小言だ。
 そんなんじゃないよ、っていうか冴羽くんのことは全然意識してなかった。心配してるのは淳くんとのウワサが全然消えないことだ。
『何にせよ色恋沙汰だろう。まったく、お主のような子供が十年早いわ』
 うるさいよ。十年経ったら二十三じゃない。さすがにそこまで浮いた話の一つもないのは、やだよ。
『ふん、とにかく今は夢魔を滅することに集中せい』
 うん。それは当然だよね。
 わたしは気合いを入れ直した。
 強い夢魔、一体どんなのがいるんだろうか。

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