委員長がわたしを好き?

 七月中に何とかドリルとかの宿題を終わらせて、やっと狩人の仕事が回ってきた。
 ほんと、お父さんきっちりしてるなぁ。
 おかげで、夏休みの終盤に慌てる心配もなくなったからいいんだけど。
 今日も夢魔退治があるんだけど、ん? お父さんちょっと浮かない顔してるな。
「今回の贄は、おまえの同級生らしいよ。夏休みに入ってから急に体調崩してるらしい。……どうする? 気が乗らないなら他の人に回すけれど」
 確かに、普段から知ってる相手の夢の中に入るって言うのは、ちょっと気が引ける。けど。
「んー、でも他の人に、って言っても今夜じゃないよね。早く解決してあげる方がいいんじゃないかな」
「それはもちろん、そうだね。だからこそ話が来たんだけど。いいのか?」
「うん。近くにいる子ならなおさら、夢魔から解放してあげたいし」
 お父さんは、偉いな、って笑った。
「それじゃ、準備しようか。……贄が誰なのかは、言わない方がいいかな?」
「夢の中でわかっちゃうかもだけど、聞かないでおくよ」
 わたしの返事にお父さんはうなずいて、魔具《まぐ》の御札を持って、床に手をかざした。
 いつも通り、白い渦巻トンネルができあがる。
「それじゃ、いってきまーす」
 いつもと同じように、跳び込んだ。
 贄は誰なのか、実は結構気になってるんだけど、それよりも、夢魔を退治してその子が元気を取り戻せばいいなと思う。
『狩人としての務めが何たるか、自覚出来てきたようだな』
 サロメが珍しく褒めてくれる。……嬉しいよ。
『ふん、常に褒められるような行動を取ればいつでも褒めてやるわ』
 あはは、言われると思った。
 さてと。夢の中に来たけれど……。
 これ、小説が原作の、今やってるアニメだね。アニメ調の夢の中って初めてだな。そんな中で自分だけがリアルってのもなんか変な感じ。
 アニメを見てすごく楽しんでるような、あったかい雰囲気が夢の中に満ちている。好きなものがそばにあるって心が落ち着くよね。
 と。来たよ、チリチリが。夢魔が現れる前兆だ。
「えー? 冴羽くんってこんなアニメ見てるの? 意外ー。子供なんだね」
 すっごい馬鹿にした女の子の声が聞こえてきたんだけど、……冴羽くん?
 じゃあ、この夢って冴羽くんの夢ってことか。
 なんか、いろいろと思うところがあって、複雑な気分になった。
 だって冴羽くんに罵声を浴びせてる子の声って、《《わたし》》なんだもん。
 景色が一変する。夢魔が現れる時の暗いマーブル模様の中に、悲しそうな顔をしてる冴羽くんがいて、彼の前に《《わたし》》がいる。
 冴羽くんが夢に見ている、わたしだ。
『お主にしては、……いや、何でもない』
 なによっ、いつも言いたいことは遠慮なくズバズバ言うくせに。どうせ夢のお主の方がかわいいとか言いたいんでしょ!
『自覚はあったのか』
 ムッカつくー!
 けど、自分で言うのもなんだけど、冴羽くんが見てる夢のわたしは、わたしより可愛いと思う。ただ、性格がねぇ。
 わたしは人の趣味にとやかく言うつもりなんてないし、そりゃ迷惑かけられたら苦情は言うかもだけど、誰が何を好きだろうとかまわないじゃない?
 それを、子供だとか馬鹿にしてる《《わたし》》が、冴羽くんのわたしに対するイメージなのかな。だとするとちょっと悲しいな。
『このお主の姿をかたどったものこそが、夢魔の核だ。冴羽とか言うこわっぱのイメージを利用しているのだろう』
 ってことは、ビジュアルは冴羽くんオリジナルで、言動が夢魔ってこと? ややこしい!
「冴羽くん、わたしのこと好きなんでしょ? だったらそんなアニメなんて見てないで、もっと声かけて来てよ。それとも、子供だからそんな勇気ない?」
 うわー、ひどい言いぐさ! ってか人の姿でそんなぽんぽん暴言吐くなぁ!
「ぼく、……ぼくは……」
 冴羽くん、口ごもっちゃった。すごく悲しそうな顔。
 彼の体から何かもやもやしたものが出てきた。それが夢魔に入り込んでく。侵食だ!
 ムカつく! うちの委員長に何してくれてんだこの夢魔はぁ!
 冴羽くんは、ちょっと気弱だけど、剣志郎って強そうな名前のくせにヘタレだって、みんなに名前負けなんて言われちゃってるけど、それでもみんなのために一生懸命やってくれてるんだよっ。
「行くよ、サロメ」
『うむ』
 サロメを鞘から引き抜いた。
「そこまでだよ夢魔!」
 冴羽くんと夢魔の間に割って入ると、夢魔の形相が変わった。目がつり上がって口が裂けて、ニタリと笑う。
 いやーっ、その形のままそんなえげつなく怖い顔にならないで!
『おぉ、本人とそっくりだな』
「うるっさいよジジィ!」
 サロメのコメントに暴言を返しながら、切っ先を思い切り突き出した。
 夢魔はそれを手で軽く弾いた。むむ、やるな。
 めげずに何度も攻撃を繰り出すと夢魔は後ろにじりじり下がってく。よし、いいぞ。冴羽くんと距離取らないとね。
 と安心したのもつかの間、右腕をがっちりつかまれてしまった。いたたた! すごい力。振り払えない。
 相手の右手が刃物になる。げっ、このままじゃ刺される。
 夢魔が手を突き出してきた。
 防御!
 強く念じると、刃物の切っ先が腰で弾かれた。衝撃は強いけど怪我はない。
 けどそのせいで、腰の木刀が落ちて滑って行った。あぁ、二刀流も出来なくなった。
 何とか自由にならないと。
 夢魔を蹴っても殴っても、びくともしない。
 また、ニタァって笑われた。
 相手の刃物の手が元に戻った。ううん、手だけが大きくなった。
 その手が、わたしの首をがっちりと掴んだ。
『愛良、魔力を使ってでも振り払え』
 言われるまでもなく集中する。けど、魔力が体から噴き出る感覚がない。
 あ、れ?
『む? どうした愛良!』
 サロメの声が遠い。息が苦しくて苦しくて……。力、はいんない。
「牧野さん!」
 この、声は?
 何かが、つっこんできた。相手の手を、わたしの木刀で、ガンガン殴ってる。
 けど、力が弱くて通じてないみたい。
 ……冴羽くんだ。泣きそうな顔で、わたしのために……。
「冴羽、くん、それ、貸して……」
 左手を伸ばす。冴羽くんが、木刀を握らせてくれた。
 あったかい手。優しい冴羽くんらしいね。
 ……力が、湧いてくる。
 冴羽くんから託された木刀を、力を、夢魔に叩きつけた。
 今までびくともしなかった手が、ゆるんだ。
 チャンス! 憎ったらしい顔に思い切りパンチ!
 するりと夢魔の手から抜けだして、サロメを構え直す。
「力を解き放て! サロメ!」
 サロメが発するまばゆい白光に目つぶしをくらった夢魔に、刀身を叩きつけた。
 夢魔が光の呑まれて消えていく。周りからどす黒いマーブルの空気が消えていく。……よかった、勝てた。
 それじゃ、帰ろっか。
 サロメを鞘にしまうわたしに、冴羽くんが声をかけてきた。
「牧野さん……、ありがとう」
 この冴羽くんは夢の中で造られた冴羽くんのはずなのに、なんだかすごくリアルな感じがする。
『本人の意識が夢の中にまで流れ込んできておる感じだな。贄本人と話すのはあまり好ましくない。……愛良』
 早く帰れ、ということだね。わたしは冴羽くんのお礼にも、サロメの忠告にもうなずいて早足で渦巻トンネルに向かった。
 夢魔もいなくなったし、冴羽くん、元気になってくれたらいいな。
 ぴょんとトンネルに飛び込んだ。
 お父さんに報告すると、「本人の意識が夢の中に作用することは、まぁあることだよ」って、あまり気にしてなさそうだったんだけど……。

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