幼馴染兄妹がすごすぎる

 うちに頂く分の支度ができるまで待つように言われてリビングに移動すると、学校から帰ってきたばっかりのお兄さんと出くわした。青井淳先輩だ。部活だったみたいだね。
 鞄を床に放り出してソファによりかかって座ってる先輩は、わたしを見て体を起こした。
「愛良ちゃん、来てたんだ」
 もう声変わりも完成に近い低めの声で言って笑った。先輩、顔は結構柔和なんだよね。作りは結構平凡っぽいけど笑うと可愛いというか。……っと、我が親友の兄にして伝説の人にシツレイな感想だけど。
 何が伝説かって、さっこちゃん以上に、このお兄さんはすごい人なんだよ。
 テストは常にトップ。成績はオール五。さらに陸上部で、三年の時に国体に出たんだって。
 ファンクラブまであったらしいよ。今もその名残で、さっこちゃんもわたしも、お兄さんと仲良くしたいって先輩からとりなしを頼まれることがある。
「はい。先輩のお疲れのところお邪魔してすみません」
 ぴょこんと頭を下げると、お兄さんは驚いた顔になった。
「なんで改まってんの? それに先輩って。今まで『淳くん』って名前で呼んでたのに」
 うん。先輩とわたしもいわゆる幼馴染と言っていい関係なんだよね。赤ちゃんの頃からさっこちゃんと仲良かったから、当然お兄さんとも結構遊んだりしてたし。
「んーっと、もう子供じゃないし、きちんと距離感表現しておかないとウルサイ人達もいるし、ってとこかな」
「ウルサイ人達?」
「あなた青井先輩の何なの? って聞かれるとか」
「えー、なんだそれ。それ聞いてどうするんだろうね」
 おかしそうにケラケラ笑う。その笑顔の罪のないことったら。
 おにーさん、あなた自覚ないですよ。
 伝説の人の幼馴染ってポジションは、結構ビミョーなんだよ。お兄さん狙いの知らないセンパイから絡まれることだって、たまーにあるんだから。
「はい、愛良ちゃんお待たせ」
 お母さんがスーパーのレジ袋にタッパーを入れて持ってきてくれた。
「ありがとうございます」
 受け取って、それじゃ一旦家に戻ります、と言うと、お兄さんが小首を傾げた。
「一旦?」
「そう、愛良ちゃん今日うちで食べるんだけどね。お父さんの分を持って帰ってもらうんだよ。あ、そうだ、あんた愛良ちゃんと一緒に行ってきて。最近この辺も暗くなってくると物騒だからね」
 へっ? お兄さんと一緒に?
「いやいやいやいや、それはさすがに悪いですよ。それに、わたしを襲ってくるモノ好きなんていませんから」
 首を振ったけど、お兄さんまでお母さんに同意しちゃってる。
「油断してちゃだめだよ。それに、ここで僕がついて行かなくて愛良ちゃんにもしものことがあったら、僕、咲子に殺されるから。僕のことを助けると思って、ね?」
 そんなオーバーな。
「ま、痴漢避けとして頼りになるはずだから、ついてってもらったら? その間にテーブルの支度済ませておくし」
 さっこちゃんまで支援してるし。
 結局、押し切られる形で、お兄さんと一緒に我が家まで行って戻ってくることになった。
 それじゃ行こうか、とお兄さんが立ち上がった。
 わー、ちょっと見ない間にまた身長伸びてる。百七十五は軽く超えてるよね。体格もいわゆる細マッチョっぽいし、確かに痴漢避けとしては申し分ないよ。中一にしてはチビなわたしと並んだらすごい身長差。三十センチぐらいあるかなぁ。
 ……うん、勉強スポーツその他いろんなこともひっくるめて、冷静に分析すると、今さらながらお兄さんがモテるのがすっごいよく判った。
 でも、わたしにとってはやっぱ幼馴染のおにーさん、なんだよね。恋愛対象として考えたこともないし、多分これからもない。
 前に、さっこちゃんが誰からだったか、「実はお兄さんのこと、男として好き、とかないよね?」って冗談半分で聞かれてたことがあったっけ。
 実の兄貴に恋愛感情なんて抱くわけないじゃないって呆れてたさっこちゃんに、わたしも近いのかもしれない。
 他の人からしたら、すっごいもったいない、って感じなのかな。ライバルが減ってよかったとも思われてるかもしれないけど。
 恋愛かぁ。憧れるけど、とりあえず今はそんなヒマないよね。夢の中でお母さん探さないといけないし。
 わたしの青春は、お母さんが帰ってくるまでお預けだ。
 一応、恋愛願望とか、結婚願望とかはフツーにあるんだし、行き遅れにならないように、お母さん、カムバーック。

 日が落ちた住宅街は結構暗い。最近になって街灯が明るいのに替えられてってるみたいだけど数は増えてないし、明るいとこは明るいけど暗いとこは暗い、みたいな。……当たり前だけど。
 不審者が出るって聞いたら、歩き慣れた道でもちょっと暗いだけで怖い感じがする。淳くんがついてきてくれてよかったかも。
「愛良ちゃん、相変わらず咲子と仲良くしてくれてんだ。いい加減飽きてきたかもしれないけどよろしくね」
 淳くんが笑う。
「いやいやそんな、飽きられてるとしたらわたしの方だと思うよ」
 大げさに首を振ってみたら、また淳くんが笑った。昔っからだけど、相変わらず良く笑うよね。
 淳くんの笑顔って、なんかこう、癒しの効果みたいなのがあると思うんだ。見ていてこっちまでほぅっとするって言うか、あったかい気持ちになれる。淳くんのそう言うところは好き。あ、もちろん男の子としてってのじゃなくて。
「咲子が愛良ちゃんに飽きるなんてことはないと思うよ。あいつと何か話す時、いっつも愛良ちゃんの話がどこかに出てくるし」
「そうなの?」
「うん。だから僕もなんだか毎日愛良ちゃんと話してるような気分になる」
 さっこちゃんや淳くんと兄弟だったら、楽しいだろうなぁとか考えちゃって、……ごめん、おかあさん、って思っちゃった。
 わたし、どんな顔してたんだろう。こっちを見てた淳くんが「……なーんてね。そんなこと言ったら迷惑かな」とか言いながら、あははと空笑いした。
 な、なんか誤解させちゃった?
「迷惑とかじゃないよ。伝説の人にそんなふうに言ってもらえて嬉しくないわけないし」
「伝説?」
 淳くんがきょとんとしてる。モテるのに気づいてないさっこちゃんといい、この兄妹はほんと天然だ。
「うん。淳くんはうちのガッコで伝説の人だよ。成績優秀、文武りょーどー、責任感バッチリってそろってたら当然だよね」
「えー、伝説なんてオーバーだよ」
「何いってんのさ。国体まで出た人が」
「あれはたまたま中学生としては速かったってだけで。高校に行ったら、そこらに埋もれてるレベルだよ」
「ふーん。やっぱ高校ってすごいんだ」
「勉強も難しくなってるし、プロにならないなら運動はそこそこでいいかな、って考えてるのもあるしね」
 もったいないなぁ。きっと淳くんが本気だしたら高校でもいい成績出せると思うのに。まぁ現実知らない中坊が勝手に思ってるだけだけど。
「それよりさ、咲子、学校でどう? うまくやってる?」
 淳くんが、ちょっと心配そうな顔で聞いてきた。
「へっ? もちろん。さっこちゃん大人気で、このままいくとおにーさんに続いて伝説の人コースだよ」
「そうか。それならよかった。あいつさ、ちょっとツンツンしてるとこあるだろ? トラブルになってないかな、って思って」
 ふぅん。お兄ちゃんとしてかわいい妹が心配ってとこか。
「淳くん、さっこちゃんのこと、大事なんだねぇ」
「やっ、そりゃぁ、まあ、ねえ。あはは」
 ニヤッ、て笑って言ってやったら、淳くん慌ててる。
 こんなやりとりも久しぶりで、なんだかほっとする。
「ほ、ほら、愛良ちゃんの家だよ。お父さんにご飯渡して来ないと」
 ほんとだ。いつの間にか着いてた。
「はーい。それじゃちょっと行ってきまーす」
 淳くんは家の門の前で待ってもらって、お父さん用にいただいた夕食入りのバスケットを台所に持って行った。
 お父さんはもう夜の診察に出ちゃってる。バスケットをテーブルの上に置いて、書き置きも用意して、淳くんの待つ門へ戻った。
「お待たせー」
「それじゃ、行こうか」
 青井家への道のりも、また淳くんと楽しく話して、あっという間だった。
 さっこちゃんところでの食事も、美味しくて、とっても楽しかった。まさに幸せの時間だったけど。
 まさかまさか、そのツケが即、二日後に回ってくるなんて思わなかった。

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