はい、座布団一枚

 今回の夢の中は……、動物園か。
 暑い日差しの下、たくさんの人がいろんな動物を見に来ている。
 さすが、小学生の子持ちのお父さんの夢の中だね。
 いいなぁ。わたしもお父さん、お母さんと動物園とか行きたい。
『ないものねだりをしていないで、夢魔を探さんか』
 きた。サロメのつっこみが。
『親と動物園を羨むなど、お主はもう中学生だろうに』
 ふん、サロメに何が判るの。お母さんがいなくなってから、うちでは家族で何かするなんてことは望めなくなっちゃったんだから。友達が家族でどっか行ったなんて話を聞くの、ちょっとつらいんだよね。
『……それは気の毒だが、母上が失踪するまでは、楽しく過ごしておったのだろう』
 そりゃそうだけど、自然と親離れするのと、突然いなくなっちゃうのは、全っ然別だよ。
 なんてやりとりをサロメとしていると、周りの景色が変わってきた。夢魔が来る兆候だ。
 空が曇ってきた。景色が暗い雰囲気になるのは、大きな特徴だね。
 あんなにたくさんいた人達がいつの間にかいなくなってる。夢の中にいるのは、父親と男の子、そしてきっと彼らには見えてないわたしだけ。
 ちりちりと、嫌な雰囲気に後ろを見ると……、ブレーキが壊れた車のように突っ込んでくる、トラっ。
「お父さん、すごいよ、トラが走ってる」
 子供が無邪気にきゃっきゃと騒いでる。いや、動物園でトラは放し飼いにしませんからっ。
 あれが夢魔だな。さぁサロメ、出番だよ。
『ワシがでるほどの相手ではない。お主ひとりの力で倒してみせい』
「またぁ? もう、もったいぶってないでよねっ」
『お主の修行も兼ねておる。文句を言わずにさっさと片付けぃ』
「このくそジジィ」
『やかましいぞ、しょんべんたれ』
「誰がしょんべんたれよ。わたしはもう十三よっ。あんたこそ介護が必要なんじゃないの? 大人用おむつでも巻いておいてやろうか」
『魔剣に介護がいるか』
 なんて馬鹿なやり取りをしている間にトラが親子の目の前だ。
 えぇい、サボリダメ魔剣はとりあえずおいといて、隣につってる木刀に手を伸ばした。
「さぁ来い、わたしが相手だよ」
 すらっと抜き放ってトラに叫びかけた。トラがこっちを見て、鼻で笑うみたいに息を吐いた。ちょっと、木刀だからって馬鹿にしてんじゃないでしょうね。夢魔の中でも下等クラスのくせにっ!
「うおりゃっ!」
 竹刀を振り上げ、打ちおろす。トラはこれをササっと横に跳んでかわしちゃった。地面に足をついたかと思ったらそのまま突進してくる。
 生意気な。返り討ちよ。
『ばかもん! よけんか愛良!』
「うるさーい! なめんなー!」
 下段にかまえていた木刀を、トラの頭めがけてすくい上げる。
 確かな手ごたえを両手に感じた。うん、ばっちり。
 トラは顎をしゃくられて、後ろに吹っ飛んだ。もう起き上がって来ない。はい、戦闘終了。
 ぴくぴく震えてたかと思ったら、トラは動かなくなって、すぅっと消えていく。
『ほぅ、なかなかやるようになったな』
 ふっふーん。愛良ちゃん強くなったよ♪
『まぁ数カ月も進歩がないようではいかんからな。それよりも、先程のが核ではないようだな』
 出てこないなら、探すしかない。
 わたしは木刀をしまって、歩き出した。
 夢の中は、夢魔のザコをやっつけたことで、またちょっと明るくなった。
 今度は、どこかの家の中で、さっきのお父さんがテレビを見ている。横の台所で子供とお母さんがご飯の支度をしている。平和な休日の夕方って感じ。
 それにしても、大きな画面のテレビだなぁ。これはプロ野球の試合かな?
 画面が変わった。あれ、これ大喜利?
 いやいや、わたしも一緒になってテレビを見ている場合じゃない。けど、ついつい大喜利に見入っちゃう。
 なんか、今回は今一つノリがよくないなぁ。
 って、そうじゃなくて。
「うーん、今週は今一つだなぁ」
 ありゃ。お父さんも満足してなさそう。
『愛良、来るぞ。気を引き締めぃ』
 サロメの忠告にわたしは、はっとなってサロメの柄を握り締めた。
“座布団全部とっちゃいなさい”
 聞きなれた大喜利のフレーズが聞こえて……。
 紫色の座布団飛んできた!
 でかっ! 何この大きさ、二メートルあるよっ!
「ひぃぃ!」
 伏せてかわしたけど、これが核?
「面白くなかったのがそんなに不満?」
 思わずつぶやいた。
 またいつの間にか景色が一転して、暗いマーブル模様の空気が漂ってる。あの家族もいなくて、ここにいるのはわたしと巨大座布団だけ。ってことは、やっぱりこいつが核で間違いなさそう。
「出番だよ、サロメ」
 立ち上がって、サロメに手をかけて、一気に鞘から解き放った。
 座布団は、わたしの上を通りすぎた後も慣性の法則で飛び続けてたけど、遥かかなたで、くるっとUターンした。
 またこっちに向かって飛んでくるつもりだな。
 すると、巨大座布団の周りに、ぽぽぽーん、と軽快な音を立てて、通常サイズの座布団が三枚現れた。
『まるでオプションだな』
「何の?」
『お主の父上が好きなゲームだ』
 ……あぁ、シューティングゲームの自機の周りに浮かぶオプションか。……って、お父さん、サロメと趣味談話してんのかっ?
 オプション付き巨大座布団が、すごい勢いで飛んでくる。速さは相当だけど、動きが単純だ。
 見切った!
 今度は横にちょいと避けるだけで済んだ。それだけじゃなくて、オプション座布団にサロメを叩きつけることに成功だ。
「一個破壊」
『座布団は一個ではなくて一枚だ』
「あんたがオプションとか言うから」
『人のせいにするな』
 座布団の綿が舞う中で、余裕が出てきたわたしはついついサロメといつもの掛け合いをしてしまう。その間にもオプション付き座布団はわたしのそばを往復する。
 ふふん。おまえの動きはもう見切ったもんね。
 本体にこそダメージを負わせられなかったが、周りに飛んでいる座布団は叩き斬ってやった。
 大量の綿でちょっと視界が悪いけど、次に本体が特攻してきたら、今度こそ、斬れる。
 遠くで反転して、その場で制止する二メートルの座布団。
 しばしの睨みあいの後、ヤツが四度目の突撃をかけてきた。
 よし、この軌道だっ。
 ヤツの突進コースを読んで、サロメを振りあげる。
 いける、と思ったけれど。
 ざざぁっと空気がざわめいて、目の前が白に変わった。
 ちらちらと動く白、これは、……綿? ヤツが綿を舞い上げて視界を遮ったんだ。
『愛良、夢魔から目を離すな』
 判ってる。けど、敵どこ?
『上だ!』
 サロメの声がしたが遅かった。
「むぎゃっ!」
 思い切り潰されて地面に突っ伏した。
「うぎゃー、つぶれる!」
 上からのしかかられて苦しいっ。息がつまるっ。視界がぼやけてきた。
『何をしておる愛良! ここで倒れるつもりか!』
 うるさいよっ。言われなくたってこんなところで倒れたくないんだから。お母さんをいつか見つけるんだ。わたしがここで倒れちゃダメなんだ。
 ……それに、座布団で圧死なんて笑えなーい!
「力を解き放て、サロメ!」
 ありったけの力を振り絞ってお腹から声を出す。
 右手に握られた魔剣が神々しい光を放った。
 もごもごっと音を立てて、座布団が身もだえした。いや、生き物の形じゃないから身もだえも変なんだけど。
 直接叩きつけたら消滅するこの光を、浴びせるだけでも効果があるみたいだね。
 ヤツの下から脱出!
「悪夢の核よ、消えされーっ!」
 わたしは力いっぱい、サロメを座布団にうちおろした。
 ――ぼふっ。
 なんともマヌケな音がして、座布団が砕け散った。
 勝った、けど、……なんだかなぁ。
「と、とにかく勝利は勝利。これで悪夢に悩まされることはないよね」
『まぁ、な』
 サロメも腑に落ちないらしい。
「んじゃ、かえろっか」
 ……しかし夢魔の核が座布団だったなんて、贄さん的に先週のよっぽど大喜利が気に入らなかったんだろうか。
 そのこだわりに、座布団一枚だねっ。



2012年1月15日開催の競作企画「お題バトル」にて執筆した作品を連載用に改稿しました。


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