古時計の秘密

 さぁ、今日も夢魔退治だ。
 今回、夢魔に浸食されている可能性があるのは小さい子供なんだって。数日前から体調不良で、風邪でもなさそうだし大きな病気でもなさそう。そこで狩人の出番となったわけだ。
「でもさぁ、夢見の人って夢の中に入るわけでもないのに、どうやって風邪とかなのか、それとも夢魔のしわざなのか、判断するんだろ」
 お父さんが作ったトンネルにひょいと飛び込んでから、ふと思いついた疑問をつぶやいてみる。
『夢見としての経験による感覚、と言ったところだろう』
 腰のサロメが答えてくれる。
 けどそれって。
「つまり、直感、ってことだね」
『まぁ、そう言ってしまえば身も蓋もないが。しかし熟練の夢見の感覚は、ほぼ外れることはないぞ』
 ふぅん。すごいんだね夢見。
『夢見の力あってこその狩人だ。逆に、狩人がいなければ夢見の力があっても夢魔は倒せない。互いを助け合っていることを忘れるな』
 うん。頑張るよ。
 さてと。……まだ夢魔は姿を見せてないみたいだね。
 夢の中は、どこかの田舎の古い家だ。緑いっぱいのすがすがしい雰囲気がいい感じの中にある家で、おばあちゃんと小さな男の子が笑ってる。
 あの五歳ぐらいの子が、夢魔に狙われている子なのかな。
 部屋全体が昭和って感じなのにテレビだけが今風なのがギャップがある。あぁ、地上デジタルに対応して新しくしたんだね、きっと。
 擦り切れた畳の上の、使い古した木のテーブルにご飯とたまご焼きとサラダが並んでる。美味しそう。こっちまでおなかが減ってきちゃう。
「おばあちゃんのたまごやき、すっごくおいしいね!」
 男の子の声がする。
「おばあちゃん特製のたまご焼きだよ」
「とくせいって?」
「え? そうだねぇ。特別においしいってことかな」
 すごくいい雰囲気だ。おばあちゃんと孫、なんかいいなぁ。
 そんなふうに思ってたら、場面が変わって、男の子が虫取り網を持って、「いってきまーす」と元気に出かけて行った。おばあちゃんはにこにこしながら手を振っている。
 えっ? こんな小さな子を一人で遊びに行かせていいの?
『田舎だからな。都会ほどそういったところは寛容だ。それに……、ほれ』
 男の子は近所の子達と合流して、今日はもうちょっと奥に行ってみようかなんて話しながら歩いてく。合流した子達は小学校中学年から高学年ぐらいで、しっかりしてそうな感じ。ちょっと安心した。
 けれど。
 男の子達はどんどん森の中に入っていく。小さな男の子の不安が、空気に溶けるようにして伝わってくる。
 このまま、絵本であった笛吹きにみんな連れて行かれちゃう話のように帰ってこれなくなるんじゃないか、みたいな、幼児らしい不安が。
『……来るぞ』
 サロメの真剣な声。
 場面がまた変わった。夢魔が出てくる時の暗い空、暗い風景の中に、でっかい、でっかい、柱時計がある。その前に男の子が一人だけ立ってる。お兄ちゃん達はどこへ行ってしまったのかな。
 それにしてもあの時計、なんだか嫌な雰囲気だ。
『あれが今回の夢魔の核だ』
 え? いきなり真打登場?
『そのようだな』
 それなら、いでよサロメ!
 わたしはサロメの柄をぐっと握って、勢いよく抜き放った。
“仏間の時計には近づいちゃいけんと言うておったに”
 時計から聞こえるこの声は、さっきの優しいおばあちゃんの? でも全然雰囲気が違う。鬼ババァみたいな怖い声だよ。
 男の子も驚いて、ぺたんとその場に座っちゃって、可愛い顔をゆがめて泣きだしそう。その子をまるで呑みこもうとするように、柱時計の前面の扉が開いた。大きな振り子がゆらりゆらりと揺れるのを見てると、なんだか怖い。
「ご、ごめ……」
 男の子はしゃくりあげちゃって、きっとごめんなさいって言いたいんだろうけど声になってない。
 そこまでだよ夢魔っ! いたいけな男の子を泣かせるなんて、この愛良ちゃんが許さないんだからねっ。
 サロメを上段に構えてつっこんだ。男の子と時計、ううん、夢魔の間に割って入るとサロメを思いっきりうちおろす。
 わたしの身長ぐらいある時計なんだから、よけることなんてできないだろう、って思ってたのに。
 うにょーんと体? をくねらせて時計が刃をかわしたっ。むむっ、生意気なっ。ってかその動き気持ち悪っ。
 ここで攻撃の手を休めてはいけない。サロメを後ろに引いて、今度は時計の文字盤を狙う。
『来るぞっ』
 サロメの声にハッとして身をひるがえす。何かが足元に飛んできた。見るとわたしが立ってた所に時計の針がブスブスと刺さってる。
 さらに振り子が飛び出してきた。針はわかるけど振り子まで飛び道具にするなんて反則だ。
『その基準が今一つ判らん』
 振り子の動きは大ぶりで、当たらなければどうということはない。
『それはどのような攻撃でもそうだな』
 そうなんだけどさ。んもう、いちいち戦いの最中に冷静につっこまないでよ。
 前から迫ってくる振り子をよけてダッシュ。今度こそ胴体をなぎ払って……。
 痛っ!? 後ろからすごい衝撃。
 耐えられずに倒れちゃったわたしをはりつけにするみたいに、針が服を刺して地面に突き刺さった。
 まずっ。
 見れば振り子が時計の中におさまってる。そうか、後ろにやり過ごした振り子が戻って来てあたったんだ。
 うー、背中がめっちゃ痛い。
 時計の文字盤の真ん中から、超でっかい針が出てきた。
 げっ、あれで刺されたらヤバい。
 なんとか針を抜いて動けるようにならないと。
 力を入れるけど、針は全然抜けない。
『何をやっておる。かような針など早く抜いてしまえ』
 わかってるしやってるよっ。でも抜けないんだもん。
 超巨大針の先端の矢印がぴたっとわたしの首あたりに向けられた。今にも発射されそう。
 絶体絶命!
「うされ、うされ、もののけうされ」
 突然聞こえてきたのは男の子の声だ。
 夢魔に浸食されてる男の子が、とととっとわたしの横に走って来て、手を組み合わせて、涙目でキッと時計を睨みつけてる。
「うされ、うされ、もののけうされ!」
 男の子はもう一度、呪文のような歌のようなのを口にした。
 時計がひるんでる、ように見える。
『方言だな。消えろ、消えろ、妖怪消えろ、と言ったところだな』
 サロメが通訳してくれた。
 きっと怖いだろうに、ピンチになったわたしのために祈ってくれてるんだ。
 負けてらんない。
「うりゃあっ」
 精一杯の力を込めて体を起こすと、わたしを地面に縫いつけてる針がぽろぽろと倒れてく。よし、これで自由だ。
 男の子に勇気と力をもらったわたしは、立ち上がった。
 行くよサロメ。夢魔を無に帰す。
 ぐっとおなかに力を込めると、反応するようにサロメが白く輝きだす。
「力を解き放て、サロメ!」
 サロメを大きく振りかぶって、白くまばゆい刀身を時計のどてっぱらに叩き込んだ。

 夢魔をやっつけてしまってから数日経って、男の子がどうなったのか、とか、お父さんに聞いてみた。
 男の子は元気になったみたい。よかった。
 あと、古時計の話も少しだけ聞けた。
 男の子のおばあちゃんの家に、あの大きな柱時計があるんだけど、あの子を含む小さな孫達が振り子の所に入ってしまうから、驚かせる意味で、おばあちゃんが「時計の中に入って遊んでいたら食べられちゃうよ」というようなことを言ったんだって。
 なるほど、だからあの夢魔だったわけだね。
 男の子が言っていたのは、おばあちゃんに教えてもらったおまじないで、怖い時に唱えるといい、って言われたみたい。
 おばあちゃん大好きっ子なんだね。夢魔が出てくる前の夢の雰囲気でわかってたけど。
 わたしはお父さんの方のおじいちゃんおばあちゃんに、年に一度ぐらいしか会えないから、うらやましいな。
 今度おじいちゃん達に会ったら、わたしがちっちゃかった時の話とか聞いてみようかな。何か面白いことが聞けるかもしれない。



創作お題配布サイト「0-Field」様 
「児童書風で5つのお題」より
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