偏屈相棒、鬼師匠

 サロメを手に、夢見の集会所の魔器保管庫から戻ったわたしとアロマさん。
 魔器ゲットの経緯を話したら、みんなが感心したような顔になった。お父さんなんか目じり下げちゃってすっごい嬉しそう。
 意志を持ってる魔器を手にしたことって、そんなに栄誉なことなんだ。わたしはただ、ちょっと惹かれただけなんだけどね。
「魔器も手に入ったことだし、来週からは愛良ちゃんの狩人としての訓練を始めるからね」
 アロマさんがにっこりと笑って言う。
 訓練? って何するんだろう。
「夢の中での動き方や武器の振り方なんかに慣れないとね。愛良は今までそういったことをやったことがないんだから、いきなり実戦に出すわけにはいかないよ」
 お父さんが付け足した。
 なるほど。ここで今までのイメージトレーニングの出番ってわけね。
 よっし、来週からやるぞっ。

 わっくわくの一週間を過ごして、週末にまた夢見の集会場にやってきた。
 訓練をするということで、服装はショートパンツとトレーナーだ。まぁいつもと変わらないとも言うけど。
 今日はダンディさんはいなくて、マダムさんとアロマさんだけだ。またうんちく話で時間を取られるんじゃないかって心配してたから、ちょっとほっとした。
 それよりも気になるのは、お父さんはサロメと一緒にどうして木刀を持ってきてるんだろう。
 この一週間、サロメはお父さんが管理してくれていた。そりゃ小学生が本物の剣を自分の部屋に置いておくわけにもいかないもんね。その間に、サロメとお父さんの間で何かやりとりがあったのかな。
「いらっしゃい、愛良ちゃん。今日から頑張ってね」
 マダムさんが前と同じように上品な笑顔で迎えてくれた。
「それじゃ、僕が訓練をしますね」
 アロマさんが先生かぁ。きっと優しく教えてくれるに違いない。うふふ、楽しみ。
 お父さんからサロメと木刀を受け取って、またリビングの隣の、何もない部屋にマダムさんとアロマさんとやってきた。
 マダムさんは、今日は青いお札を出している。お札の色で行けるところが違うのかな。
 前と同じように、マダムさんがしゃがんでお札を床に置いて念じるようなしぐさをする。
 よどみない動きってこういうのを言うんだね。
 お札の周りがうっすらと白く光りだした。さすがに二度目だから前ほどは怖くないけど、やっぱりどきどきする。
「さ、いってらっしゃい」
 白の渦巻きが完成すると、マダムさんが立ち上がって上品スマイルだ。
 今日もアロマさんが、先にひょいと渦に飛び込む。
 よっし、わたしもいくぞ。
 ぐっと拳を握って、えいっと飛び込んだ。
 到着したのは、何もない空間だ。暗くもなく明るくもなく、って感じの、あんまり色のない世界だ。これが夢の世界の夢の映像のない姿なのかな。
「それじゃまずは、腹筋と腕立て伏せとスクワットを百回ずつ、やってみようか」
 きょろきょろしてると、アロマさんがさらっと、本当にさらっと、とんでもないことを言った。
 へっ? とアロマさんを見ると、にこにこしている。
「百回?」
 聞き間違いじゃなくて?
「そう、百回」
 ……聞き違いじゃなかった。
『狩人ならそれぐらい、まさに朝飯前だろう』
 腰のベルトにさげてるサロメまでそんなことを言いだした。
「そんなには無理だよぅ。できたとしても筋肉痛になって明日動けないよ」
 うー、と涙目になる。
「愛良ちゃん、ここは夢の中だよ。百回もできないとか、そんなことしたら筋肉痛になるとか、そういう現実世界の常識は捨て去ればいい」
 捨て去るってそんな簡単に言うけど……。
『お主の大好きな想像力でなんとかするのだ。そうだな。自分の中に眠る絶大なる力を呼び醒ますとかどうだ』
「それじゃまるで中二病じゃない」
「中二病の考え方ぐらいで丁度いいのかもしれないよ」
 反論したわたしに、アロマさんがうなずいた。
 中二病でいいんだ。まだ中学進学直前の小六だけど。
 じゃあ、やってみよう。
 まずは腹筋を。
 仰向けで寝っ転がって、ふんっと起き上がる。
「いーち、にー、さぁーん」
 掛け声にあわせて、できる、できる、わたしはできる、って思いながら。
 でも三十回を超えたあたりで、おなかがちょっと苦しくなってきた。
『しようのないヤツだな。よし、ワシが魔力を分けてやろう。これで楽になるだろう』
 サロメが、ほんわりと白く光った。魔力を分けてくれたんだ?
 ……おぉ? 苦しくないっ。いけるっ。
 どんどん数をこなしてって、そんなに時間をかけずに全部百回ずつできた。すごいよサロメの魔力。
『ふん、思った通り単純だな。ワシはなにもしておらん。ちょっとした暗示だ』
 えっ、ということは、自力でできたの?
『その通りだ。その思い込みこそが夢の中での力になる。お主のような前向きかつバカがつくほど単純な者が、より狩人の力を引き出せるというわけだな』
「ふえぇ、そう言われても今一つ実感わかないよ、っていうかそれ褒めてなくない?」
 つっこみをいれたけどサロメはフフンと笑うだけだ。根性悪いぞじぃさん。
「それじゃ、もうちょっと実感できる訓練にしようか」
 アロマさんが言うと、わたしの立ってるところが少しずつ高くなっていく。
 えぇぇ? アロマさんが一メートルぐらい下に見える。
「そこから飛び降りてみて」
 これぐらいなら、何とかなるかな。
 えいっとジャンプして、なんとかこけずに着地した。
「上手上手。じゃあ、次はこれね」
 またわたしだけぐんぐん高く昇ってく。……って、ちょっと、高すぎるよ。五メートルぐらい高くなったよっ。
「はい、ジャンプ」
 そんな、天使みたいな笑顔で、犬に命令するみたいに言わないでぇ。怖いよこれ、こんな高さからジャンプなんて骨折れちゃう。下手したら死んじゃうよ。
『常識にとらわれるなと言うておろう。それとも狩人になるのをあきらめるか?』
 人が必死に恐怖と闘ってる時にうるさいよこの偏屈じぃさん。
『ふん、そんな悪態つく余裕があるなら、ほれ、跳べ』
 いかにもバカにした感じで言われた。くうぅ、腹立つぅ。
 いいよ、跳んでやろうじゃないか。
 サロメのイヤミに負けたくないから、ぐっと足に力を入れて、ジャンプした。
 イメージ通りに動ける世界なら、痛くないように、ふわっと羽根のように、降りるんだ!
 痛いのは嫌だ。だからそう強く願った。
 ……あ。浮いてる。わたし、浮いてる。
 本当に羽根みたいに、ゆるゆるふんわりと、わたしはアロマさんのところに舞い降りて行った。
「すごいね愛良ちゃん。上手だよ。この調子なら狩人デビューも早いんじゃないかな」
 アロマさんに褒めてもらっちゃった。
「今日は初日だし、このぐらいにしておこうか。ゆっくり休んで、また来週ね」
 そう言われて、なんだか急にどっと疲れを感じた。精神力を使うからなのかな。
 とにかく早く夢の世界での動きに慣れないと。

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