天使と悪魔のささやかな勝負

 今日は大切な日。彼と初めてデートする大切な大切な日。

 あっ、いたいた!約束の時間五分前。ちゃんと来てるね。私は・・・一分前に出て行くの。だって待っててくれるって、愛されてる証拠だもん、嬉しいよね。それに女は、待たせるくらいでなきゃ!

 うふっ、ソワソワしてる。あっちキョロキョロこっちキョロキョロ。そんなに会いたいのかな。待ち遠しいのかな。うん、そう思うだけでなんか楽しい!

 よし、一分前!元気に出て行こう!

「おはよう!待った?」
「い、いや。今来たとこ。」
 
 もう、見え透いた嘘ついちゃって!五分以上前から待っててくれたこと、ちゃんと知っているんだからね。

「ど、どこ行きたい?」
「んー、そうだなぁ・・・」

 少し考えたフリしただけなのに、もう不安そうな目をしてる。大丈夫、無茶なこと言わないから!今はね!

「とりあえず腕組まない?」
「えっ?」
「手、繋ぐんでもいいけど?」
「手ぇ繋ぐぅ!?」

 手ぐらい繋いだっていいでしょ。だって私達は恋人同士なんだから!

「じ、じゃあ・・・」

 そう言うと真っ赤な顔して彼が左手を差し出してきた。少し汗ばんでいたのはきっと緊張しているせい、だよね・・・

 華やいだ町並みには、美味しそうなクレープ屋さんやお洒落なカフェがいっぱい!
 何にしようかな、どこにしようかな・・・ん?もしかして今・・・

「ねぇ、今すれ違った子見てたでしょ?」
「み、見てないよ・・・」

 初デートでもう浮気?これだから男は!

「嘘!見てた!」
「・・・ごめん。」

 ほんの一瞬目を逸らしただけ。そんなのわかってる。許してあげようよ。だけどここで許したら主導権渡すようなもんじゃない?私の中の天使と悪魔が勝負を始めた。許す?許さない?さぁ、どっち!

「もう、見ない?」
「うん。」
「絶対?」
「絶対見ない!」

 真剣な眼差しで私に誓う彼。よし!これで主導権は握った!だから私はとびきりの笑顔でこう言うのだ。

「わかった。許してあげる。」

 ホッとした彼の手をきつく握り返し、にっこり笑って・・・そしてこうも言うのだ。

「クレープ、食べよ!」

 若い私達には、これからたくさんの「嬉しい」「楽しい」「淋しい」「哀しい」そして「ムカつく!」ことが待っているんだろうな。だけど彼となら何があっても幸せでいられるような気がする。多分・・・ねっ!

(了)


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